―[佐藤優のインテリジェンス人生相談]―
中学校の教師から子どものもとに届いた「夫が市議会選挙に出るので投票してくれ」という手紙。教員による政治活動が制限されるなか、憤りを感じる読者の悩みに“外務省のラスプーチン”と呼ばれた諜報・外交のプロ・佐藤優が、その経験をもとに答える!
私の恩師も政治活動をするほど教師は腐敗している
★相談者★本郷ハヤト(ペンネーム) 会社員 39歳 男性
毎年、日本のあちこちで教員の不祥事が当たり前のように多発しています。もう10年前ですが、中学時代のある女性教師がハガキで「今度、夫が市議会選挙に出るので投票してほしい」と依頼してきたことがあります。恩師ヅラして公務員なのに選挙活動する教師に心底腹が立ちました。ちなみに、ほかの教え子にも依頼のハガキを送っていたことが後日、明るみに出て、罰金刑になり、教師の夫も落選しました。こんな人が何を子供たちに教えられるのでしょう。教育者として恥を知れと言いたいです。本当に今は盗撮に窃盗、飲酒運転、平気で悪いことをする教員だらけでうんざりします。僕は人に何かを教えるのはからっきしダメですが、せめて子供たちに生きざまは示していこうと思ってます。今は本当に何が正義で悪なのかわからなくなっていると痛感せずにはいられません。
佐藤優の回答
教員の不祥事にもいろいろなものがあります。通常、教育現場で問題になるのは、盗撮や淫行など性犯罪系です。あなたが問題にしているのは、公務員の政治活動に関する制限の問題なので、不祥事一般で括ることはできません。国公立小中高校の教員は公務員なので、法に基づいて政治活動には制限があります。
私立学校の場合、制限はありません。本件では、本人も法的制裁を受けています。18歳を超えた高校生には選挙権があります。18歳未満の生徒は選挙権がないので、教壇でこの教師が投票を呼び掛けた可能性は低いと思います。
あなたは、「子供たちに生きざまは示していこうと思って」いるということですが、本件を教員の不祥事という乱暴な括りで見てしまうような物の見方をしていても、模範的な生き方を示すことはできないと思います。怒りが湧いたとき、感情のまま発言するのではなく、論理的に整理する習慣をつけたほうが、あなたにとって得だと思います。
自分を相対化し、気に入らないことに対して直情的に怒りを向けても時間をムダにするという認識を持たれたほうがいいです。
私が尊敬する作家の五木寛之氏はこんな指摘をしています。
〈出会った人間は、別れる。(中略)人間とは哀しいものだと思い、人生は残酷であるのが自然だと考える。それをマイナス思考と恐れることはない。絶望を抱いて生きたからといって、悪い脳内ホルモンが出ては心身をむしばむわけではない。魯迅は「絶望の虚妄なること希望に同じい」と言った。/存在するのは大河であり、私たちはそこをくだってゆく一滴の水のようなものだ。ときに跳びはね、ときに歌い、ときに黙々と海へ動いてゆくのである。親鸞の「自然法爾」も夏目漱石の「則天去私」も、たぶんそのような感覚なのだろう。/私たちの生は、大河の流れの一滴にすぎない。しかし無数の他の一滴たちとともに大きな流れをなして、確実に海へとくだってゆく。高い嶺に登ることだけを夢見て、必死で駆けつづけた戦後の半世紀をふり返りながら、いま私たちはゆったりと海へくだり、また空へ還ってゆく人生を思い描くべきときにさしかかっているのではあるまいか。〉(『大河の一滴』37~38頁)
学校時代の思い出も悪いことだけではないと思います。尊敬できる教師もいたと思います。当時の友達との楽しかった出来事を思い出してみることをお勧めします。過去と前向きに向き合うと、未来においても素晴らしい出会いがあります。
何かに苛立っているあなたの心の有りようを変化させることが重要と思います。
★今週の教訓……過去と前向きに向き合うと未来は好転する
※今週の参考文献『大河の一滴』五木寛之 幻冬舎
―[佐藤優のインテリジェンス人生相談]―
【佐藤優】
’60年生まれ。’85年に同志社大学大学院神学研究科を修了し、外務省入省。在英、在ロ大使館に勤務後、本省国際情報局分析第一課で主任分析官として活躍。’02年に背任容疑で逮捕。『国家の罠』『「ズルさ」のすすめ』『人生の極意』など著書多数
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