自民、公明両党は今夏の参院選を控え、物価高騰への対策として全国民を対象とした現金給付の方針を打ち出した。これは、かねてより「バラマキ」との批判を受ける可能性が指摘され、今年4月には一度見送られた経緯のある政策だ。にもかかわらず、なぜこの現金給付策が再び浮上し、推進されることになったのか。その背景には、与党と官邸、そして財務省の複雑な思惑が見え隠れする。
選挙圧力と減税回避の苦渋
今回の現金給付「復活」の最大の要因は、差し迫った参院選にあると与党内では見られている。野党各党がこぞって消費税減税などの直接的な税負担軽減策を訴える中、自民党執行部、特に森山裕幹事長らは「減税は絶対に認められない」という強い姿勢を崩さなかった。しかし、選挙を目前に控えた参院議員からは、「このままでは選挙戦を戦えない」「有権者にアピールできる目玉政策が必要だ」といった切実な声が多数上がっていたという。政策担当者は様々な選択肢を検討したが、結局、国民への分かりやすさと即効性から、現金給付に落ち着いたのが実情だ。
税制に手をつけず、税収増を財源に
税制、とりわけ消費税に手を加えることを避けたいという党執行部と財務省の意向が、現金給付という形式を選択させた大きな理由の一つだ。政府内で「税制をいじらない」という基本方針のもと、現金給付を可能とする仕組み作りが進められた。その財源として浮上したのが、予想を上回る税収の「上振れ」分だった。財務省から今年の税収が増加する見込みとの報告があり、これを国民に還元するという名目で給付金に充てることが決定された。この方針を積極的に推進したとされるのが、自民党の木原誠二選挙対策委員長だ。岸田前首相のブレーンであり、岸田政権で官房副長官を務めた経験を持つ木原氏は、財務省出身という経歴も持つ。彼は「国民が物価高で苦しんでいる時に国の税収だけが伸びているのはおかしく、しっかり国民に還元していくことも大切だ」と述べ、増収分還元のロジックを主導したとされる。
物価高対策としての現金給付策について説明する与党関係者
具体的には、全国民を対象に1人あたり2万円、そして低所得者層の大人と子どもにはさらに2万円を上乗せし、合計4万円を給付する案が検討されている。この内容は、自公両党が参院選の公約に盛り込む方向で最終調整が進められている。しかし、前述の木原氏が示す「税収増の国民還元」というロジックが、物価高に苦しむ多くの国民にどこまで理解され、受け入れられるかは不透明な状況であり、政策の有効性と評価には疑問の声も上がっている。