千葉ニュータウン北環状線未開通問題:甘利スキャンダルから9年、事業は止まったまま

千葉県北西部に位置する千葉ニュータウン。その主要幹線道路となるはずだった県道「千葉ニュータウン北環状線」の一部区間、約450mが長年にわたり未開通の状態が続いています。この状況は、かつて日本を揺るがした「甘利スキャンダル」とも深く関連しており、いまだに解決の糸口が見えない状況です。この未開通区間の建設予定地には夏草が生い茂り、錆びついた鉄骨構造物が放置されるなど、異様な光景が広がっています。近隣住民からは早期開通への期待とともに、遅延に対する不満の声も聞かれます。この問題の核心にあるのは、事業施行者である千葉県および整備・補償交渉を担当するUR都市機構(以下UR)と、道路予定地横に社屋を構える地元企業、薩摩興業(現・睦建設)との間の複雑な補償交渉です。

工事中断の背景:甘利スキャンダルとの関連

千葉ニュータウン北環状線は、印西市から白井市に至る全長約11kmの幹線道路として、1967年に都市計画決定された古い事業です。未開通となっている区間は、2013年12月に一度は工事が着手されましたが、2015年12月以降、再び中断しています。中断の主な理由は二つ。一つは、道路予定地の地中に不法に埋められた約4万6800立方メートルに及ぶ大量の産業廃棄物の存在です。もう一つは、工事を進める上で支障となる薩摩興業の社屋や宿舎の扱いです。これらの問題を解決するため、URと薩摩興業の間で補償交渉が行われましたが、これが難航しました。

未開通の千葉ニュータウン北環状線、夏草が生い茂る建設予定地未開通の千葉ニュータウン北環状線、夏草が生い茂る建設予定地

この補償交渉に、当時経済再生担当大臣を務めていた甘利明氏(75)が登場します。2016年1月、『週刊文春』が甘利氏が薩摩興業の元総務担当者から現金を受け取った疑惑を報じ、いわゆる「甘利スキャンダル」が発覚しました。薩摩興業側は、URとの補償交渉を有利に進めるために甘利氏に働きかけを行ったとされています。特に、社屋の再配置・建て替え費用として2013年8月にURから支払われた約2億2000万円の補償金は、甘利氏の口利きによって実現したとも報じられました。この一連の報道を受け、甘利氏は経済再生担当大臣を辞任しました。その後、あっせん利得処罰法違反罪などで告発されましたが、不起訴処分となっています。しかし、政治的な決着がついた後も、この道路工事は中断されたまま現在に至ります。

URと薩摩興業、終わらない法廷闘争と交渉

甘利スキャンダルが報じられる少し前から、現場ではURと薩摩興業の間で激しい対立が始まっていました。薩摩興業はURから受け取った2億2000万円の補償金を元に社屋を建て替える予定でしたが、移転先の隣接地に産業廃棄物が埋まっていたため、建て替えは頓挫します。これを受け、URは2015年7月に、薩摩興業が完全に別の場所へ移転する「構外移転」を提案しました。しかし、この際の追加補償額を巡って両者の意見は全く折り合わず、工事は再び中断。

URは2017年7月に追加補償額を「1億1000万円」と最終提示しましたが、薩摩興業はこれを受け入れませんでした。しびれを切らしたURは、「1億1000万円を超える補償義務はないことの確認」を求めて薩摩興業を提訴しましたが、敗訴しています。一方、薩摩興業が申し立てた民事調停には、URは一度も出席せず不調に終わるなど、両者は「追加補償は1億1000万円まで」とするURと「それでは足りない」とする薩摩興業の間で、2015年7月以降、法廷内外での“バトル”が繰り広げられてきました。薩摩興業側は、移転先の確保がURの約束通りに進まなかったことや、受け取った補償金に税金がかかり数千万円を納税する羽目になったこと、そして最低でも1000坪の土地が必要な移転に対して1億1000万円では費用が賄えないことなどを訴えてきました。薩摩興業の寺床社長は、必要な金額は2億9000万円程度だったと語っています。

新たな障壁:第三者による仮登記

長期化する交渉と工事中断による近隣からのプレッシャーに疲弊した薩摩興業の寺床社長は、ついにURの提示額である1億1000万円を受け入れることを決意します。2021年3月、薩摩興業はURに対し、この金額での合意を受け入れる旨を通知しました。しかし、ここで新たな問題が発生します。なんとURはこの薩摩興業からの申し入れを拒否したのです。その理由は、薩摩興業の社屋が建つ土地に第三者による仮登記がなされていることでした。

薩摩興業の社屋がある場所は、寺床社長の父の代から長年借り続けている土地です。この土地をNPO法人の代表者が地主から購入する契約を交わし、仮登記を行っていたのです。URは、この仮登記を行っている第三者との間で話し合いがまとまるまで、追加補償についての契約を締結することはできないと主張しました。このように、URと薩摩興業の交渉が後手後手に回った結果、当初の補償問題に加え、第三者の権利という新たな障壁が浮上してしまった形です。

UR側の回答と今後の見通し

工事再開の見通しについてURに問い合わせたところ、「工事中断以降、施工についての諸条件も変わっており、工事再開に向け、円滑に工事が進められるよう今後の進め方や施工方法について関係機関との協議を行っているところです」との回答が得られました。これは、工事再開までにはまだ時間と調整が必要であることを示唆しています。薩摩興業への補償問題に関しては、「補償条件が双方で合意し、補償契約内容の履行がなされれば解決するものと考えております」と、解決に向けた意向は示しつつも、具体的な進展状況についての言及は控えられました。また、仮登記を行っている第三者についても、「施工方法によっては、工事に必要となる土地の使用について、土地所有者等との協議が必要になることもあると考えております」と述べ、必要に応じて交渉の可能性を示唆しました。

URの回答からは、未開通問題の解決には、薩摩興業との補償合意に加え、産業廃棄物処理、そして新たな課題である第三者との調整など、乗り越えるべきハードルが複数存在することが改めて浮き彫りになりました。地元住民が待ち望むこの重要な公共工事がいつ再開されるのか、そして今度こそ政治的な介入なく、円滑な解決に至るのかが注目されます。


参考資料