29日に死去した中曽根康弘元首相は「大統領型首相」を標榜(ひょうぼう)してトップダウンの政治を先駆けて実行し、小泉純一郎元首相や安倍晋三首相らの政治手法に大きな影響を与えた。今国会で議論の進展が期待される憲法改正の必要性も強く訴えてきた。
行財政改革を最重要課題に掲げた中曽根氏が、官僚や族議員らの抵抗を押さえ込むために活用したのが官邸が直接、民間の意見を取り入れる「審議会」だ。
その代表格は、鈴木善幸内閣で就任した行政管理庁長官のときに発足させた「第2次臨時行政調査会」(会長・土光敏夫元経団連会長)。昭和58年3月の臨調の最終答申を踏み台に国鉄、電電公社の民営化へ道筋を付け、これらを首相のときに相次いで実行に移した。特に国鉄民営化は国労の弱体化と社会党の衰退という55年体制の終焉(しゅうえん)をもたらした。
さらには橋本龍太郎元首相が推進した中央省庁再編の素地となり、小泉氏の郵政民営化や道路公団民営化にも受け継がれた。
旧電電公社が民営化されたNTT出身の世耕弘成参院幹事長は29日の記者会見で、「中曽根行革の取り組みは非常に印象に残っている。国鉄の分割民営を成し遂げられたのは大きな業績だ」と振り返った。
安倍首相も宿願とする憲法改正について中曽根氏は一貫してその必要性を訴え、平成15年の議員引退後も超党派の「新憲法制定議員同盟」の会長を務めるなど積極的に発言を続けてきた。
「政治は与野党を問わず、国民世論の喚起とともに真に国民参加となる憲法の実現を目指し、国家の基本たるこの課題に真剣に取り組んでゆくことを期待する。国の将来を見据え、現状を改革し、果敢に国の未来を切り拓(ひら)いてゆくことこそ政治の要諦だ」
中曽根氏は昨年5月、100歳の誕生日を迎えるにあたって発表したコメントでこう強調した。「国家の青写真とも言うべき憲法は国を考える上でも重要なテーマ」とも指摘している。
改憲をめぐっては今国会も主要野党が議論に応じず停滞を続けている。
自民党で憲法改正推進本部長を務めた下村博文選対委員長は29日、産経新聞の取材に対し「われわれ後輩がご存命中に憲法改正を実現できなかったのは残念だ。憲法議論をもっと積極的に進めていきたい」と中曽根氏を悼んだ。(長嶋雅子)