現在、Amazonプライム・ビデオでシーズン6が配信されている恋愛リアリティショー『バチェラー・ジャパン』。2017年に日本版が初めて制作されてから8年、男女逆転版の『バチェロレッテ・ジャパン』を含めると今回で9作目となる長寿番組だ。これだけ続くとマンネリ化や、「婚活サバイバル番組」というイメージへの拒否感といった側面も考えられるが、番組は時代に合わせて変化を続けている。特に現在配信中のシーズン6は、初期シーズンから大きく様変わりしており、その変化の到達点の一つと言えるだろう。この変化が具体的にどのようなものなのか、そしてそれが番組に何をもたらしているのかを見ていきたい。
「奪い合い」の空気感の変化
『バチェラー』は、一般的に「“スペックの高い”独身男性・バチェラーを、複数の女性たちが奪い合う」番組として認識されている。公式の説明では、「成功を収めた1人の独身男性の運命のパートナーの座を巡り、性格もバックグラウンドも異なる複数の異性たちが競い合う恋愛リアリティ番組」とされており、この基本的なコンセプト自体はシーズン6でも変わっていない。最終回では、運命のパートナーとして一人の女性が選ばれることになる。しかし、初期シーズンに顕著だった「奪い合う」ことによる張り詰めた、あるいは対立的な空気感に大きな変化が見られるのだ。
特に今シーズンでは、スタジオコメンテーターである今田耕司氏が「やっぱ原点に帰ってバチバチで行かんと!取り合わないと!」とコメントするほど、参加女性たちの間で直接的な競争意識や対立、いわゆる「バチバチ」する様子が控えめになっている点が特徴として挙げられる。
シーズン2との比較:消えた「下世話」なイメージ
この変化をより理解するために、過去のシーズンと比較してみよう。例えば、2018年に配信されたシーズン2では、番組公式が「日本一ゴージャスで過酷な婚活サバイバル番組」と銘打ち、予告編でも「色仕掛け」「嫉妬」「裏切り」といった刺激的な言葉が前面に押し出されていた。このような露骨な表現や、女性同士の激しい対立を強調する宣伝は、「下世話」という印象を与え、視聴を避けていた層や、当時のテレビCMなどでの印象がそのまま残っている視聴者も少なくないだろう。
しかし、最新シーズンでは、かつてバチェラーを彩っていたかのような、そうした「バチバチ」や「下世話」といった要素が意図的にか、あるいは自然にか、息を潜めているように見える。その結果、シーズン6は過去シーズンに比べて全体的に「見やすい」印象になっている。これは、番組から面白さが失われたということではなく、また恋愛ドラマが起きていないということでも決してない。むしろ、女性同士の駆け引きや対立よりも、個々の女性とバチェラーの関係性の発展や、彼女たち自身の内面に焦点を当てる傾向が強まっているためと言えるだろう。
バチェラー・ジャパン シーズン6のバチェラー、武井亜樹氏のポートレート
シリーズ構造が抱える根本的な問い
『バチェラー』シリーズがその構造上、常に抱えることになる一つの問いがある。「いくら相手のスペックが高かったとしても、それだけで人は真に相手を好きになれるのか?」という問いだ。バチェラーの魅力がその高いスペック(社会的地位、経済力など)にあるとされる一方で、恋愛感情がスペックのみによって生まれるわけではない、という現実とのギャップは、番組の本質に関わる部分と言える。この問いは、特に昨年配信された『バチェロレッテ・ジャパン』シーズン3などでより鮮明に浮き彫りになった。バチェロレッテが最終的に下した決断は、必ずしもスペックだけが重要ではないことを示唆しており、視聴者に改めて「恋愛における本当に大切なものとは何か」を考えさせるきっかけとなった。
最新シーズンであるシーズン6における「バチバチしない」という変化は、こうした番組構造の根本的な問いや、視聴者の変化(スペック競争よりも個人の魅力や人間関係の深さを重視する傾向)に対応しようとする試みなのかもしれない。激しい競争や対立を抑え、より人間的な側面に光を当てることで、番組は「婚活サバイバル」という枠を超え、多様な愛の形や人間関係を描くリアリティショーへと進化しようとしていると言えるだろう。
『バチェラー・ジャパン』シーズン6のバチェラー武井亜樹氏の医師としての姿
結論
『バチェラー・ジャパン』は、8年の歴史の中で、特に最新シーズン6において、かつての「激しい奪い合い」というイメージから脱却し、より「見やすい」番組へと変化を遂げている。これは、単に刺激が減ったということではなく、時代や視聴者の意識の変化に対応し、番組構造が持つ恋愛における本質的な問いかけに、新たな角度から向き合おうとする進化の過程と言えるだろう。この変化が今後の恋愛リアリティショーにどのような影響を与えていくのか、注目が集まる。
参考文献
https://news.yahoo.co.jp/articles/34643c96fc0615c6a0cba1c71f7bb8ddcb63ec28