南西防衛の要、宮古島駐屯地:緊迫の現場と隊員の覚悟

那覇空港から約45分、エメラルドグリーンの海に囲まれた宮古島が見えてくる。この島は平たんで川がなく、海の透明度が高いことから「ミヤコブルー」と称される美しい海が広がる。島内を車で巡ると、のどかなサトウキビ畑や赤瓦の民家が点在する一方で、カーナビの「東シナ海」という文字に、ここが日本の国境にほど近い島であることを改めて認識させられる。この戦略的に重要な位置にあるのが、陸上自衛隊宮古島駐屯地だ。南西防衛の要として、2019年3月に開設されたこの駐屯地は、宮古諸島の防衛・警備を担う宮古警備隊や、先島諸島における対空戦闘を担当する地対空誘導弾部隊などが配備されている。

南西防衛を担う宮古島駐屯地の施設と自衛隊官舎南西防衛を担う宮古島駐屯地の施設と自衛隊官舎

南西防衛の最前線:司令が語る緊張感

2023年4月から宮古警備隊長兼宮古島駐屯地司令を務める比嘉隼人氏は、この地の重要性を強調する。「尖閣諸島まで約200キロメートルという物理的な近さもあり、南西地域で起きる事象一つひとつが『対岸の火事』ではないと感じています。我々には有事の際の初動の部隊だという緊張感がある」と語る。宮古島駐屯地は、この地域の安全保障環境の変化に対応するための日本の防衛力強化策の一環として設置され、不測の事態への即応態勢を維持している。

日々の訓練と隊員の献身

宮古島駐屯地には約760人の自衛隊員が駐留し、日々様々な訓練に励んでいる。印象的なのは、サウナスーツを着て駐屯地内を黙々とランニングする隊員たちの姿だ。これは南西諸島の夏の猛暑に対応するための「暑熱順化訓練」であり、過酷な環境下でも任務を遂行できるよう体を慣らす目的がある。他にも屋内射場での射撃訓練や装備品の取り扱い訓練などが行われる。島内で実施できない砲弾の実射訓練などは、九州各地の演習場などで行われ、実践的な能力向上に努めている。

隊員の出身地は多岐にわたる。司令職務室長の岡村浩治氏は鹿児島県の奄美大島出身で、関東地方勤務などを経て2024年に宮古島駐屯地へ配属された。「定年まで残り10年というタイミングで南西諸島での勤務を志願しました。ここに骨をうずめる覚悟で、千葉県内で購入したマンションを売り、家族帯同で宮古島に来た」と、強い決意をもって異動してきたことを明かす。

前出の比嘉司令は沖縄本島南部の南城市出身で、祖母は沖縄戦の経験者だ。幼少期から戦争の悲惨さや命の大切さを繰り返し聞かされて育ったという。「『命どぅ宝(命こそ宝)』という言葉は沖縄県民の人生の軸です。悲惨な戦争を絶対に起こしてはいけないし、国民や県民、市民の命や平和な暮らしを守る自衛官という職業は誇らしい。国防は誰かが担わなければいけない仕事であり、自分の故郷は自分で守り抜きたい」と、自身のルーツと自衛官としての使命感を語る。

地域との摩擦と隊員家族への思い

一方で、駐屯地の配備に対する市民団体による抗議活動も続いている。駐屯地の正門前の路上には「ミサイル基地いらない!」「宮古島を戦場にしないで」などと書かれた横断幕やのぼり旗が並ぶ。駐屯地には隊員やその家族が暮らす官舎が隣接しており、幼い子どもたちも生活している。隊員やその家族がこうした光景を日々目にしている状況を察すると、南西防衛の重要性と地域の複雑な感情の間で揺れ動く、困難な現実があることを感じずにはいられない。

結論

陸上自衛隊宮古島駐屯地は、日本の南西地域における安全保障環境の緊迫化に対応する上で極めて重要な役割を担っている。配備された隊員たちは、故郷や国民を守るという強い使命感を胸に、日々厳しい訓練に臨み、それぞれの覚悟を持ってこの地で勤務している。しかし、地元住民の一部には基地配備への懸念や反対意見も根強く存在し、隊員とその家族はそうした複雑な地域社会の中で生活を送っている。宮古島駐屯地の存在は、単なる軍事拠点ではなく、日本の安全保障、隊員個人の献身、そして地域社会との関係性が複雑に絡み合う、日本の現状を象徴する場所と言えるだろう。

参照元

南西防衛の要、宮古島駐屯地:尖閣諸島から200km、緊迫の現場と隊員の覚悟 (Wedge ONLINE)