2022年4月23日に北海道・知床半島沖で発生し、20人が死亡、6人が行方不明となっている知床遊覧船『KAZU1(カズワン)』沈没事故。この痛ましい事故の運行会社社長である桂田精一被告(62)の業務上過失致死罪に問われた公判が釧路地裁で始まりました。法廷で桂田被告は「家族の皆様に心からお詫びします」と謝罪する一方で、「罪が成立するのかわかりません」と自身の責任については明言を避ける姿勢を見せています。
法廷で明かされた生々しい音声と検察・弁護側の主張
公判では、事故当時、海上保安庁へ救助を求めたとされる船長らしき男性の「船首部分が沈みかけている。早く来てくれ!」「カシュニの滝です。カシュニ!」といった緊迫した生々しい音声が公開されました。事故発生当日は強風注意報や波浪注意報が出ており、検察側は桂田被告が事故を予見できたとし、「出航後でも船長に航行中止を指示すべきだった」と主張しています。これに対し、弁護側は「事故の発生を予見できなかった」と反論しており、責任の所在を巡る攻防が続いています。
「海の素人」と評された桂田社長の人物像と謝罪会見
『カズワン』の事故発生から4日後の2022年4月27日、桂田被告は謝罪会見を開きましたが、その内容には疑問符がつけられました。会見中、3度にわたる土下座を見せたものの、「午前中はシケていなかった」など、海の状況判断能力を疑わせる説明に終始し、安全意識の欠如が指摘されました。桂田被告を知るウトロ港近くの住民A氏は、「土下座もパフォーマンスに見える。社長は海の素人。事故の原因や問題点をよく理解していないのではないか」と語っています。
桂田被告は地元・斜里町出身で、40歳過ぎに実家に戻り、両親が経営する民宿やホテルを手伝っていました。2015年4月に『国民宿舎桂田』などを運営する『しれとこ村』の社長に就任し、翌年に『知床遊覧船』を買収したとされています。
公判を終え、釧路地裁を後にする桂田被告の姿
利益優先が生んだ内紛と経験不足の船長
全国紙社会部記者によると、『知床遊覧船』の先代社長が高齢を理由に売却を検討していたところ、桂田被告が数千万円で事務所や船を丸ごと買い取ったといいます。しかし、買収直後から会社では内紛が発生しました。旅館業のプロである桂田被告は海に関する知識が乏しく、利益を優先するあまり「海が荒れていても船を出せ!」と指示することもあったとされ、これに反発した熟練の船員は全員辞めてしまいました。そのため、安い賃金で経験の浅いスタッフを雇い直すことになったと報じられています。
事故を起こした『カズワン』の船長B氏もまた、その能力が疑問視されていました。入社は事故の約2年前で、それ以前は水陸両用車の団体で働いており、知床沖のような荒れることの多い海での操縦経験は皆無だったといいます。通常、船の操縦技術が一人前になるには3年かかると言われる中、桂田被告はB氏を「センスがある」と持ち上げ、わずか1年ほどで船長に任命。しかも1人で2隻を担当させていたとされます。真面目で寡黙だったB氏は、この要求を断れず悩んでいたようで、自身のFacebookに「ブラック企業で右往左往です」と投稿していました。2021年6月には、B氏は出航後まもなく船を座礁させる事故を起こし、翌年1月には業務上過失往来危険容疑で書類送検されています。
桂田社長の責任と大惨事の背景
住民A氏は、事故直後の謝罪会見で桂田被告が最終責任は「私」としながらも、「(事故を起こした船は)船長判断による出航」と語り、責任をB船長に押し付けている印象を受けたと指摘しています。小型観光船のゴールデンウィークからの就航が通例であるにもかかわらず、『知床遊覧船』だけが1週間近く前倒ししたのは、利益を優先させた結果であると見られています。A氏は、桂田被告が天候を無視し、安全を軽視した結果がこの大惨事を生んだとの見解を示しています。
この注目の裁判の判決は、2025年6月17日に言い渡される予定です。





