〈やなせたかしが中1で初めて書いたラブレター、返事はまさかの…「顔面蒼白、ぼくは手紙を破って捨ててしまいました」〉 から続く
【画像】『あんぱん』に出演中の『アンパンマン』声優・山寺宏一さん
“アンパンマン”の生みの親であり、朝ドラ『あんぱん』のモデルにもなったやなせたかしさん。ジャムおじさんやバタコさん、バイキンマン……さまざまなキャラクターが登場する『アンパンマン』の世界に、実は人間が登場していないのを知っていましたか?
宮崎駿監督を尊敬する一方、「彼とはまったく別の方向で、アニメを作りたかった」と語るやなせさんのキャラクター作りについて、著書 『わたしが正義について語るなら』 (ポプラ社)より抜粋して紹介します。(全4回の4回目/ 最初から読む )
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アンパンマンのキャラクターは“円”でできている
キャラクターを考えるのは、とても難しいですよ。みなさんもやってみると分かると思います。我々はみんな似たような顔をしていますね。目が2つ、鼻が1つ、口が1つ。違うといってもせいぜい数ミリメートルの位置の違いで、5センチメートルも違うということはないんですね。でもみんな違う。
アンパンマンのキャラクターは、最初は食べ物だけにしようとしていたのだけど、だんだんそれだけでは間に合わなくなってしまいました。今では食べ物以外のキャラクターもたくさんいて、全部合わせると2000を超えています。
キャラクターを作る時に、動物を擬人化してしまえば個性を作るのはやさしいんです。犬と猫、馬は明らかに違いますから、簡単に描き分けることができる。
しかし何十人の人間の個性を絵で描き分けるのはとても難しいんです。ぼくの絵にはぼくの個性がありますから、ぼくが描く絵は目が似ていたり、どこか「やなせタッチ」になります。
ましてや、これが美女を描くとなるとさらに難しい。自分の好きな女性の顔がありますから、あまり変化させにくくて、恋人とか近親の人に似てしまうんですね。
他のアニメを見ていても、美女の顔はあまりうまくないように思います。人形みたいにパターン化している。ディズニーでさえそうです。
アンパンマンの中には、美少女が相当数登場しているんですよ。
ところでみなさんは気がついているかどうか分かりませんが、アンパンマンシリーズに出てくるキャラクターは、基本的にコンパスで描ける円にしています。
作りやすい。描きやすい。間違いがない。クレヨンしんちゃんのような変形したかたちは、なるべく使いません。
こけしは同じ基本型の上に描いていきますが、それと同じ。基本型は同じだけれど、それに違う個性を持たせていくというやり方です。これはなかなか難しいのですよ。