カナダ西部カナナスキスで開かれた先進7カ国首脳会議(G7サミット)は17日、ウクライナ支援に関する共同声明を出すことなく閉幕しました。これは、これまで一貫してロシアを非難し、ウクライナの主権保護を掲げてきたG7の結束に「変容」が生じていることを鮮明に示しています。世界的な政治・社会情勢が変化する中、G7が直面する新たな課題が浮き彫りとなりました。
共同声明見送りの背景と議長国の釈明
通常、G7首脳会議の成果は共同声明で発表され、参加国全員の同意が必要です。しかし今回、ロシアのウクライナ侵攻に関する言及は、議長の権限で出せる「議長総括」にとどまりました。
議長国カナダのカーニー首相は閉幕後の記者会見で、「議長総括に記載の通り、われわれは完全に一致している」と述べ、結束が失われていないことを強調しました。しかし、共同声明が見送られた事実は、G7内の合意形成が以前より困難になっている現実を浮き彫りにしています。全員の同意が必要な共同声明を断念し、議長権限で発出できる総括に留めたことは、G7がかつてのような一枚岩ではないことを示唆しています。
カナダ G7首脳会議 ウクライナ支援に関する協議の様子
過去のG7サミットとの対比
ロシアによるウクライナ侵攻が始まった2022年以降、ウクライナのゼレンスキー大統領はG7サミットに毎年招待され、G7の強力な結束を示す存在として位置づけられてきました。
2023年には被爆地である広島で開催されたG7サミットに出席し、当時の岸田文雄首相らと共に核の威嚇を行うロシアへの対抗姿勢をアピール。昨年のイタリアでのサミットでも、ウクライナ情勢は主要議題の一つでした。G7はウクライナへの揺るぎない支援と、ロシアへの強い非難を繰り返し確認していました。ゼレンスキー大統領の参加は、G7が民主主義と国際法の擁護者として一致団結していることを内外に示す象徴的な意味合いを持っていました。
米国政権の変化がもたらす影響
状況が大きく変わり始めたのは、ロシアに融和的な姿勢を示すトランプ氏が今年1月に就任して以降です。
今年2月、侵攻3年に合わせて開催されたG7テレビ首脳会議では、ゼレンスキー氏も参加したものの、共同声明の発表は見送られました。続く3月のG7外相会合では、ロシアに対する批判のトーンが弱められ、米国の同意を得る形でようやく共同声明の発出にこぎ着けるなど、米国の意向がG7の対ロシア姿勢に影響を与え始めていました。米国第一主義を掲げる新政権の外交スタンスが、 G7の従来の結束や優先順位に変化をもたらしていることは明らかです。
今サミットでの対ロシア圧力表現
追加制裁に消極的なトランプ氏の意向は、今回のカナダでのサミットでさらに明確に反映されました。
G7サミットの議長総括は、ウクライナが強く求めていた対ロシア制裁強化を明確に記載せず、「ロシアへの圧力を最大限に高めるあらゆる選択肢を模索する決意を固めている」という、以前に比べて歯切れの悪い、曖昧な表現にとどまりました。これは、G7全体としての具体的な行動指針を示すより、将来的な可能性に言及するにとどまる表現であり、加盟国間の足並みの乱れを示唆するものです。
トランプ氏の早期帰国とゼレンスキー氏の反応
トランプ氏は中東情勢への対応を優先するため、サミット途中の16日にカナダを離れ帰国しました。
ゼレンスキー大統領は17日、カナナスキスに残ったトランプ氏を除く各国首脳と会談し、連携を確認しましたが、「本命」であるトランプ氏の不在により、期待していたような成果を得られず肩透かしを食らった形となりました。主要な支援国である米国首脳との直接の協議が十分に行えなかったことは、ウクライナにとって大きな誤算だったと言えます。
ゼレンスキー氏は自身のX(旧ツイッター)に「助けに感謝する」という短い投稿をするにとどまり、予定されていた記者会見を中止。日程を切り上げて早期に帰国の途に就くなど、不満や失望を示唆する対応を見せました。これまでのG7サミットで見られた力強い連帯のメッセージ発信が控えめになったことは、G7におけるウクライナ支援の潮目の変化を物語っています。
今回のG7サミットにおいて、ウクライナ支援に関する共同声明が見送られたこと、そして米国大統領の早期帰国は、ウクライナ侵攻開始以来保たれてきたG7の対ロシア・対ウクライナ支援における結束が、新たな国際情勢の下で「変容」期に入っていることを強く印象付けました。今後のG7がウクライナ支援に関してどのような姿勢を維持・変化させていくのかが注目されます。国際社会の安定にとって重要なG7の役割と、その未来が問われています。
参考文献:
[記事リンク] (https://news.yahoo.co.jp/articles/6c8f4796806e2659b71ee90d261716a0cddc8d19)