音楽界のスターから経営者へ転身したEXILE HIROと、プロレス界のトップスター棚橋弘至。異なるジャンルながら、多くの共通点を持つ二人が直面した最大の試練は、やはり新型コロナウイルスのパンデミックだった。生身のパフォーマンスを核とするエンターテイメントやプロレスにとって、コロナ禍がもたらした影響とは。そして、この未曽有のピンチを経験して見出したものとは何だったのか。二人がその内幕を語る。
コロナ禍がもたらした興行・ライブ中止の衝撃
「人を集める」事業であるLDHや新日本プロレスにとって、近年の最大のピンチはやはりコロナ禍だったのか、という問いに対し、EXILE HIRO氏はその衝撃を語った。「6年に一度のお祭り、『PERFECT YEAR』というイベントを開催した年が2020年で、まさにコロナ禍直撃でした。予定していた約350公演のライブがすべて中止になり、会社としてもアメリカやヨーロッパへの展開を進めている最中でしたが全て撤退し、経営していた飲食店も大きなダメージを受けました」と、事業全体に及んだ広範な影響を説明した。
新日本プロレスの棚橋弘至選手も、プロレス興行の中止という前例のない事態に直面した経験を語る。「新日本プロレスも2020年2月の大会を最後に、6月まで約4カ月間まったく興行ができなくなりました。無観客興行から再開し、有観客可能になっても客席の間隔を広くする必要があったのでまばらなお客さんの前で試合をすることになって。拍手はOKだけど、声援はダメ。でもプロレスって本来『いけー！』とか、声を出して楽しむもので、拍手だけなんてそんなお行儀のいいものじゃない。本当に何のために戦っているんだろうって思いましたね」。観客の声援がないという、パフォーマンスの根幹に関わる制限が選手のモチベーションに与えた影響を明かした。
この状況について、EXILE HIRO氏もまた、ライブの現場で感じた戸惑いを共有した。「ファンのみなさんの声が聞こえないライブには、メンバーたちもかなり戸惑っていましたね。声があがらないライブなんて僕の現役時代には体験したことがないですから」。
ファンとの繋がり、困難の中で再確認された原動力
声援が制限されるといった未曽有の状況下でも、LDHのメンバーは「みんながベストを尽くして、LDHを盛り上げようと頑張ってくれていました」とHIRO氏は述べ、そのプロフェッショナリズムに感謝を示した。自身の個人的な感情についても、「思い通りにいかないことばかりでとても歯痒かったですが、メンバーやファンのみなさんの行動に勇気をもらえましたし、本当に感謝しましたね。やはりLDHとファンのみなさんは、素敵な人が本当に多いなと、たくさんの体験で切に思いました」。困難な状況だからこそ、共に乗り越えようとするメンバーやファンの存在が、自身の大きな支え、そして原動力となった経験を語った。
棚橋弘至選手もまた、コロナ禍を経て、改めて気づかされたことがあるという。「僕らレスラーは勝ちたい、チャンピオンになりたいと思って戦ってるけど、それと同じくらい、ファンの方に喜んでもらいたいという気持ちが原動力になっているんだなって」。プロレスラーの闘いの根源には、自己目標だけでなく、観客の喜びがあることを再確認したと語り、これは自身だけでなく「全プロレスラーに共通することだと思います」と、その普遍性について言及した。
コロナ禍のエンタメ・プロレス界を語るEXILE HIROと新日本プロレス・棚橋弘至の対談風景
コロナ禍は、LDHや新日本プロレスのような「人を集める」事業にとって、計り知れない困難をもたらした。しかし、EXILE HIRO氏と棚橋弘至氏は、この未曽有の危機を通じて、ファンとの強い繋がりや、応援がパフォーマンスの何よりの原動力であることを改めて深く認識したという。物理的な距離や制約があっても、ファンとアーティスト/レスラー間の精神的な結びつきが、困難を乗り越えるための大きな支えとなった経験が語られた。
[出典] Yahoo!ニュース (文藝春秋)
