東京都内5箇所に教室を持つ人気学習塾「VAMOS」の富永雄輔代表と、塾業界30年以上のベテランである神奈川県の中学受験国語塾「中学受験PREX」の渋田隆之塾長による対談の第4回。今回は「結果を出すこと」と「納得する受験」に焦点を当て、「深海魚問題」にも触れる。
人気学習塾VAMOS代表の富永雄輔氏と中学受験PREX塾長の渋田隆之氏
「納得する受験」は本音を隠す「きれいごと」か?
富永: 最近、「納得する受験」という言葉をよく耳にします。これは、合格や偏差値に過度にこだわらず、受験プロセスや子供に合った学校を選ぶことで、親子が納得できる受験体験を、という意味合いのようです。塾講師として、「結果を出すこと」について、先生はどのようにお考えですか?
渋田: 基本的には、「結果を出すこと」は非常に重要だと考えています。これは単に合格者数を増やすためという意味ではなく、子供たちの可能性を最大限に引き出す、成長の機会としての結果です。
富永: 私も、プロとしてお金をいただいて教えている以上、結果を出すことは必須だと考えます。しかし、最近は「競争させるのは良くない」「結果だけでなくプロセスを大切にすべき」といった考え方が広まっているように感じます。
渋田: それは、ある種の「きれいごと」の側面があると思うんです。保護者の方が精神的に追い詰められないように、そういった言い方が一種の「安定剤」として機能している。本音では、どの親御さんも少しでも良い、偏差値の高い学校に入れたいと思っているのではないでしょうか。例えば、偏差値が10ポイント違う2つの学校に合格した場合、ほとんどの人が偏差値の高い方の学校を選択するはずです。「納得する受験」という言葉は「耳に心地よい」だけで、多くの場合、一時的なものに過ぎないと思います。
受験を「イニシエーション」として捉える重要性
富永: 「競争させたくない」と言いつつも、実際には高い目標を内心持っている保護者も多いというのは同感です。
渋田: 「偏差値だけで学校を選ぶな」という批判はよく聞かれますが、これは実績を上げていない塾が言う言い訳に聞こえることもあります。確かに学校選びは単純な偏差値だけでするものではありませんが、各校の個性を深く知ろうともせず、ただ難関校の受験自体を抽象論で批判する人も多く見受けられます。私は、「正しい方向性で全力で頑張る」という姿勢こそが何より大切だと考えます。世界各国には子供から大人への移行を促すイニシエーション(通過儀礼)がありますが、日本においては12歳前後での中学受験がその役割を果たし得る貴重な機会となり得ます。子供が一回り大きく成長するチャンスですから、この機会を全力で、前向きに取り組むべきです。子供が目標に向かって努力することに水を差すような言動は、決して良い影響を与えません。例えば、塾として開成に多数合格させた上で、「生徒の個性によっては開成以外の学校に進学するようアドバイスすることもある」と言えれば、それは格好良いでしょう(笑)。あるいは、生徒が「A」という学校を目指していたけれど、実はよりレベルの高い「B」の方がその子に向いていると見抜き、そこに導いて合格させてあげることこそ、プロとしての醍醐味です。
富永: 生徒の才能や可能性を探し出す視点がないと、それは難しいですね。最近の教育現場では「多様性」がキーワードになっていますが、時にその「多様性」の名のもとに、努力や競争といったものを否定するような風潮を感じることもあります。
努力と結果を正当に評価する文化を取り戻す
渋田: たとえギリギリであっても、一生懸命勉強して、開成や桜蔭のような難関校に合格するのは、本当に素晴らしいことではありませんか。
富永: まったく同感です。高い偏差値を維持し、難関校への合格実績を出すことは、並大抵のことではありません。それを達成している学校や塾は、一定の成果を上げているという点で尊敬されるべきです。受験直前期になると、弱気になってしまうのか、「無理して上の学校に行かなくてもいい」「子供が無理なく入れる学校でいい」という雰囲気が強まりますが、本来上を目指すこと自体を否定するのが、本当に子供のためになるのか疑問に感じますね。実際、桜蔭や開成に合格した子供に対して、「おめでとう」と言う前に、「親が無理やり勉強させたから受かっただけだろう」といったような、まるで「アンチ中学受験」とも言うべき否定的な反応をする人もいます。厳しい環境に果敢に挑戦することの価値をもっと社会全体が認めるべきではないでしょうか。開成のようなトップ校に合格したとして、そこで人生が終わるわけではありません。むしろ、そこで多様な友人に出会ったり、素晴らしい先生に巡り合ったりすることで、大きな刺激を受けて自分の人生が大きく変わる可能性を秘めているのです。
結論:受験は結果だけでなく、努力の価値と将来への扉
中学受験における「納得する受験」と「結果を出すこと」という二項対立は、保護者の本音と理想、そして教育者としてのプロフェッショナリズムが交錯する複雑なテーマです。両氏は、プロセスや子供の気持ちを尊重することも大切だが、それらは往々にして保護者の不安を和らげるための側面を持ち、「結果」への希求こそが本音である場合が多いと指摘します。また、12歳という多感な時期の受験を、子供が自らを鍛え、一回り成長するための重要な「イニシエーション」と捉え、目標に向かって全力で努力することの価値を強く訴えます。難関校への挑戦とそこで得られる結果は、単なる合格実績に留まらず、子供の将来に新たな扉を開く経験となり得ると、両氏はその重要性を強調しました。教育現場や社会全体が、子供たちの真摯な努力とそれによって得られた結果を、正当に評価し称賛する文化を育むことの必要性が示唆されています。
Source: https://news.yahoo.co.jp/articles/45662f1c8a89283045696bee28724aeafc418830