米情報機関、イランの核兵器製造「未決定」 数カ月~1年要と分析 – イスラエル・米強硬派と見解対立

米国の情報機関は、イランが核施設への攻撃や最高指導者の暗殺といった直接的な軍事威嚇を受けた場合、核兵器製造の決定を下す可能性が高いと分析している。しかし、情報機関は、イランは現時点ではまだ核兵器の製造を決めておらず、実際の生産には数カ月から1年かかるとの見方を示しており、これはイスラエルや米国内の対イラン強硬派が主張する「核兵器製造は差し迫っている」という見解と対立している。米情報機関は、最近のイスラエルの対イラン攻撃や米国の関与が、むしろイランを核兵器生産へと追い込む可能性があると指摘している。

米情報機関の見解:核製造は未決定、数カ月~1年

ニューヨーク・タイムズ紙が情報関係者の話として19日付で報じたところによると、米情報機関は、イランが核爆弾製造に必要な高濃縮ウランを大量に開発しているものの、実際に核爆弾を製造するかどうかはまだ決めていないとみている。この見解は、3月に国家情報局長が議会で証言した内容と変わっておらず、イスラエルの対イラン攻撃後も修正されていない。情報関係者らは、もし米軍がイラン中部のフォルドゥにあるウラン濃縮施設を攻撃したり、イスラエルがイランの最高指導者を暗殺したりすれば、イラン指導部が核爆弾生産へと舵を切るだろうとの見通しを示している。これは、外部からの直接的な軍事圧力があれば、核兵器保有へと戦略を急変させる可能性があることを示唆している。

イスラエル・米強硬派の主張:核製造は差し迫っている

これに対し、イスラエルおよび米国内の対イラン強硬派は、イランは核兵器製造に関して「すでに臨界点に達した」と主張している。キャロライン・レビット大統領報道官は19日、「イランは核兵器達成に必要なすべてを持っている」とし、「彼らに必要なのは最高指導者の決定のみであり、核兵器生産完了までは数週間を要するだろう」と述べた。この評価は、イランが15日以内に核兵器を作れるとするイスラエルの情報機関モサドが提供したとされる資料と類似している。

技術的側面とIAEA・米情報機関の評価

国際原子力機関(IAEA)と米情報機関によると、イランは現在、濃度60%の高濃縮ウランを900ポンド(約400キロ)以上保有している。これを核兵器級とされる90%までさらに濃縮すれば、理論的には10個以上の核兵器を製造することが可能となる量である。しかし、実際に核兵器を製造するには、追加のウラン濃縮に加え、核弾頭の設計、小型化、ミサイルへの搭載など、さらに複雑で時間を要する技術的段階が必要となる。米情報機関は、これらの工程を踏まえると、イランの核兵器製造には数カ月から1年かかるとの評価を維持している。

イランの公式方針とファトワ

イランの最高指導者アリ・ハメネイ師は2003年に核兵器開発を禁止する宗教令「ファトワ」を発表しており、ある情報関連高官はこれが「現在も依然として維持されている」と述べている。同高官はまた、イランが15日以内に核兵器を製造できるというイスラエルの評価は、誇張された警告であると批判している。

差し迫った状況での可能性:原始的核兵器

一方で、もしイランがイスラエルや米国によって極度に追い詰められ、状況が急迫すれば、小型化やミサイル搭載といった洗練された技術を伴わない、原始的な核兵器を短期間で製造する可能性も指摘されている。このような核爆弾は、広島に投下されたもの(重さ1万ポンド、長さ10フィート)に似た、飛行機から投下可能なタイプになるだろう。

新情報 vs. 新分析:情報機関の反論

米国のJ・D・バンス副大統領は、米情報機関が3月に公式な立場を表明した後に新しい情報が入ってきたとし、イランの核開発がより差し迫っていることの根拠としている。しかし、米情報機関の関係者らは、イスラエルなどから提供されたとされる情報は、イランの核計画や製造の意志に関する新しい情報ではなく、むしろ従来の情報に対する新しい分析に過ぎないと反論しており、情報機関の基本的な評価に変わりはないことを示唆している。

イラク戦争の教訓と情報公開の意図

米情報機関がイランの核開発態勢に変化がないという見解を積極的にマスコミに流している背景には、2003年のイラク戦争のような事態の再発を防ぎたいという意図があるとみられている。当時のジョージ・ブッシュ政権は、イラクが大量破壊兵器(WMD)を開発していると主張して開戦したが、後にその情報が捏造であったことが明らかになった。当時の情報機関もこれに同調したと批判されており、現在の米情報機関の実務高官らは、同じ過ちを繰り返すことへの懸念から、従来の正確な情報分析を公にしている可能性がある。

信頼できる情報源によると、米情報機関とイスラエル・米強硬派との間でイランの核兵器製造能力および意思決定に関する評価に大きな隔たりがあることが明らかになった。この評価の対立は、中東情勢の今後の展開、特にイランに対する軍事行動の可能性に影響を与える重要な要素となるだろう。米情報機関は、外部からの直接的な軍事圧力こそが、イランに核兵器製造を決定させるトリガーになり得ると警告しており、これは慎重な対応が求められる現状を示している。


参考文献:
ニューヨーク・タイムズ (情報機関関係者の発言として)
国際原子力機関 (IAEA)
米国情報機関関係者
イスラエル情報機関 モサド (主張される情報)
米ホワイトハウス報道官 キャロライン・レビット (発言)
米副大統領 J・D・バンス (発言)
イラン最高指導者 アリ・ハメネイ師 (2003年ファトワ)