トランプ米大統領は21日夜、ホワイトハウスでの国民向け演説で、「この40年間、イランは『米国に死を』と叫び続けてきた」と述べ、実際にイランが米国民を殺害してきたと主張しました。かつては良好な関係にあった両国が、なぜ現在のような厳しい対立関係に陥ったのでしょうか。この米イラン対立の根源を探るため、70年以上にわたる両国の関係史を振り返ります。
ホワイトハウスでのトランプ米大統領の演説 – 米イラン対立の歴史と現状を説明
対立の始まり:1953年のクーデター
米国とイランの確執は、70年以上前の出来事にさかのぼります。1953年、イランで石油国有化を進めていたモサデク首相が、米中央情報局(CIA)などが主導したクーデターによって失脚させられました。事実上の亡命状態にあったパーレビ国王が復権し、イランは「中東で最も親米的な国」と評されるようになります。しかし、このような内政干渉に対する国民の反米感情は、水面下で高まっていきました。
イスラム革命と米国大使館人質事件
両国間の対立が決定的になった大きな転換点は、1979年のイスラム革命です。トランプ大統領が演説で言及した「40年間」とは、この革命以降の緊張関係を指しています。革命によって、親米的なパーレビ国王の体制はホメイニ師率いるイスラム主義勢力によって打倒されました。樹立されたイラン・イスラム共和国の最高指導者となったホメイニ師は、米国を「大悪魔」と呼んで厳しく非難しました。
米国がパーレビ国王の亡命を受け入れ、イランの身柄引き渡し要求を拒否したことが、さらなる反米感情の爆発を招きました。ホメイニ師を支持する学生たちは、テヘランの在イラン米大使館を占拠し、大使館員らを444日間にわたり人質にしました。この事件が決定的なきっかけとなり、両国は翌1980年に国交を断絶しました。
この大使館占拠事件は、米国内で連日大きく報じられ、米国民に強い衝撃と屈辱感を与えました。緊迫した状況は、2013年にアカデミー賞を3部門受賞した映画「アルゴ」でも描かれ、日本でも話題となりました。人質は1981年に解放されましたが、レーガン米政権は1984年にイランをテロ支援国家に指定し、米側の不信感は根深いものとなりました。
核開発計画の発覚と核合意
米側の不信感がさらに強まったのは、2002年にイランの核開発計画が発覚したことです。米国はイランへの制裁を強化すると同時に、イランが核兵器を保有するのを防ぐための外交努力を積極的に行いました。その結果、オバマ政権下の2015年には、欧州やロシア、中国などを交えた交渉の末、イランの核開発を制限することと引き換えに、イランへの制裁を解除するという内容の核合意(JCPOA)が結ばれました。
トランプ政権下の「最大限の圧力」
しかし、トランプ氏は2016年の大統領選挙中からイラン核合意を一貫して批判していました。大統領就任後の2018年には、国際社会の反対を押し切る形で一方的に核合意から離脱し、対イラン制裁を再発動しました。これに対し、イラン側も核合意で定められた内容の履行を段階的に停止していきました。
「最大限の圧力」政策を掲げ、イランに核兵器開発の完全放棄などを求めたトランプ政権は、2020年にはイラン革命防衛隊の精鋭であるコッズ部隊のソレイマニ司令官を殺害するという軍事行動に出ました。これに対し、イランはイラク国内の駐留米軍基地2カ所を弾道ミサイルで報復攻撃し、一時的に緊張が大幅に高まりました。
高まる緊張と今後の展望
ソレイマニ司令官は、シリア内戦や「イスラム国」(IS)掃討作戦での活躍により、イラン国内で英雄視されていました。イランの最高指導者であるハメネイ師は、ソレイマニ氏暗殺に対する報復を繰り返し表明しています。実際、米司法省は2022年、第一次トランプ政権で国家安全保障問題担当補佐官を務めた対イラン強硬派のボルトン氏の暗殺を革命防衛隊メンバーが計画したとして刑事訴追したことがあります。米司法省は、革命防衛隊が現在もトランプ氏の殺害を狙っている可能性が高いと見ています。
トランプ氏は、第二期政権発足直後の2025年2月には、イランに対する「最大限の圧力」政策を復活させる大統領覚書に署名しました。「可能な限り攻撃的な制裁を実施する」と強調する一方で、「イランにこう言いたい。『ぜひ素晴らしいディール(取引)をしたい』」とも述べ、交渉の余地があることも示唆しました。その後、実際に核問題を巡る協議は重ねられていましたが、双方の溝は依然として埋まっていない状況です。
まとめ:根深い対立構造
1953年のクーデターから始まり、イスラム革命、米国大使館人質事件、核開発問題を経て、米イラン間の対立は70年以上にわたり続いています。特に1979年の革命以降は、両国間の不信感が根深く、関係修復は極めて困難な状況が続いています。トランプ大統領は「最大限の圧力」を継続しつつも対話の可能性に言及していますが、これまでの歴史が示すように、両国の溝は深く、緊張緩和への道筋はなお見通せない状況です。
参照元
毎日新聞 (西田進一郎【ワシントン】)
https://news.yahoo.co.jp/articles/6bee1ca4c51bc679d60d4818a609ee4c56374fbb