トランプ米政権は、イランに対して異例の直接的な軍事攻撃に踏み切りました。戦後80年という節目に発生したこの攻撃は、その方法と正当性を巡り、国際社会で大きな議論を巻き起こしています。なぜアメリカは突然、このような軍事行動を選択したのでしょうか。そして、その背景にはどのような意図や判断があったのでしょうか。本稿では、米国防総省の発表や関係者の証言、専門家の分析に基づき、攻撃の詳細からその正当性、そして今後の国際情勢への影響までを考察します。
攻撃の詳細:B2爆撃機と地下貫通爆弾
今回の攻撃は、「真夜中の鉄槌(てっつい)」作戦と名付けられ、アメリカ中央軍によって実行されました。ダン・ケイン統合参謀本部議長によると、B2ステルス爆撃機7機がアメリカ本土を出発。空中給油を繰り返しながら1万キロ以上の長距離飛行を行い、イラン国内の3カ所の核関連施設を標的としました。標的となったのは、ナタンズ、イスファハン、そして特に厳重な地下施設とされるフォルドゥです。
イラン攻撃に使用されたB2ステルス爆撃機の想像図
ナタンズとイスファハンの施設には、潜水艦から発射された巡航ミサイル「トマホーク」が使用されました。一方、地下約80メートルに位置するとされるフォルドゥに対しては、B2爆撃機のみが搭載可能な巨大爆弾「GBU-57」が投下されました。この約14トンにも及ぶ爆弾は、「バンカーバスター」とも呼ばれ、硬い地中やコンクリート構造物を貫通する能力を持っています。公開されたフォルドゥの衛星画像からは、地表に複数の大きな穴が開いている様子が確認できます。米軍は、おとりとして別のB2爆撃機を太平洋方面に飛行させるなど、精密かつ計画的な作戦であったことを強調しています。ダン・ケイン議長は、これを「アメリカ史上最大のB2爆撃機による作戦攻撃」であり、「911以降、最も長距離の任務」と位置づけました。
米国の主張と国際機関・情報機関の見解
米国防長官ヘグセス氏は、今回の攻撃はイランに核兵器を持たせないためであり、「世界にアメリカの抑止力が復活したことを示した」と述べ、作戦の大胆さと見事さを称賛しました。そして「世界は大統領の発言に耳を傾けるべきだ。アメリカ軍は世界最強の軍隊だ」と加えました。
イラン攻撃について説明する米国防長官
しかし、アメリカのこの主張に対しては、国際機関や米情報機関からの異なる見解が存在します。IAEA(国際原子力機関)のグロッシ事務局長は、イランが組織的に核開発に取り組んでいるという証拠は持っていないと述べています。さらに、アメリカのギャバード国家情報長官も、今年3月の時点で情報機関はイランが核兵器を製造していないと評価している、と議会で証言していました。これは、今回の軍事行動の根拠とされる「核開発阻止」という目的について、疑問を投げかけるものです。
攻撃の背景:イスラエルの影響と政権内の力学
突如として行われたように見えるこの軍事行動の背景について、早稲田大学の中林美恵子教授は分析します。中林教授によれば、トランプ大統領は本来、話し合いによってイランの核武装を止めたいと考えていた立場でした。しかし、イスラエルがイランに対して様々な重要人物を殺害し、防空能力をも破壊するといった行動を先行させていました。軍事的に見れば、もしイスラエルの成果を基にアメリカが加担すれば、最も重要な核施設であるフォルドゥを破壊できるかもしれない、という「千載一遇のチャンス」がトランプ大統領に巡ってきたと中林教授は指摘します。
また、政権内の意思決定プロセスも影響した可能性があります。中林教授は、1期目のトランプ政権には安全保障や外交のプロが多くいましたが、2期目ではトランプ大統領自身の考え方や理念に賛同する人物だけを選んでいると分析。今回も、トランプ大統領の決断に真っ向から異を唱える人物は政権内にいなかった、という見方を示しています。
正当性を巡る議論:イラク戦争との比較
今回の攻撃の正当性については、慶應義塾大学の田中浩一郎教授が厳しい見方を示しています。田中教授は、トランプ大統領が過去のイラク戦争への突入を批判してきたにもかかわらず、今回の手順と手続きはイラク戦争当時よりもひどいと断じています。
破壊された施設の衛星画像
2002年のイラク戦争開戦時、アメリカはイラクが大量破壊兵器を保有していると主張しましたが、後にそれは発見されませんでした。その際、当時のパウエル国務長官は国連安保理に説明を行っており、仮にそれが「ガセネタ」であったとしても、一応は関係国に説明し、軍事攻撃への許可を得ようとする手続きは踏んでいました。しかし、今回のイラン攻撃では、田中教授は「そんなことすらしていない」と批判。イスラエルが6月13日に開始した、国際法上問題が多いどころか違法と言える軍事攻撃を、アメリカが是認しただけでなく、自らそれに陥ってしまっていると厳しく指摘しました。
「体制転換」を巡る矛盾するメッセージ
ヘグセス国防長官は、今回の作戦は「体制転換を目指すものではない」と繰り返し強調し、イランの人々や部隊を標的にしたものではないと述べました。
しかし、トランプ大統領は、その後の自身のSNSへの投稿で「体制転換」に言及し、米政権内で矛盾するメッセージを発信しています。トランプ大統領はSNSで、「『体制転換』という言葉は政治的には正しくないのかもしれない」としつつ、「だが現在のイランの体制がメイク・イラン・グレイト・アゲイン(MIGA!)できないのであれば、どうして『体制転換』が起こってはいけないんだ?」と投稿しました。これは、国防長官の公式見解とは異なる、体制転換の可能性を示唆する発言であり、攻撃の真の目的や今後の展開について不透明さを増しています。
まとめ
今回のアメリカによるイラン核施設への攻撃は、その規模と方法において異例のものです。米国防総省は核開発阻止と抑止力の再確立を目的とするとしていますが、国際機関や米情報機関の見解、そして専門家の分析からは、その正当性や真の動機について疑問が投げかけられています。イスラエルの行動との関連や、政権内の意思決定プロセス、さらには「体制転換」に関するトランプ大統領の言及など、この軍事行動の背景は複雑です。戦後80年の節目におけるこの出来事は、今後の国際情勢に影響を及ぼす可能性があります。
出典:ANN (テレビ朝日)、CNN