株主総会を今月25日に控え、フジテレビの清水賢治社長(64歳)は精力的にメディア対応を行っている。特に注目されたのは、ライバル局であるテレビ東京の番組「ワールドビジネスサテライト(WBS)」に出演し、コンテンツ事業への1250億円以上もの大規模投資計画を明らかにしたことだ。この大胆な発言の真意はどこにあるのか、テレビ業界に衝撃を与えたその背景を探る。
FMH次期社長、株主との委任状争奪戦の渦中
清水社長は、フジテレビの親会社であるフジ・メディア・ホールディングス(FMH)の次期社長に就任予定だ。現在、FMHは「モノ言う株主」として知られる米投資ファンド、ダルトン・インベストメンツと激しい委任状争奪戦を繰り広げている。事前の票読みではFMH側が優勢と見られているものの、独自に12人の取締役候補を提案するダルトン側の支持も根強く、予断を許さない状況だ。ダルトン側が推す取締役候補を一人たりともFMHの経営陣に入れたくない清水社長は、株主総会での「完全勝利」を目指しているとみられる。そのために、総会を前にメディア露出を増やし、自身の描く革新的な経営戦略を株主や市場に強くアピールしていると考えられる。特にテレビ東京の看板経済番組であるWBSへの出演は、個人視聴率でライバル視される同局での登場に、関係者の間で一時騒然となったという。
フジテレビの清水賢治社長、株主総会を前にコンテンツ投資戦略について語る
5年間で2500億円の成長投資、その半分以上をコンテンツへ
清水社長の発言の中で特に業界関係者を驚かせたのは、投資計画の具体的な内容だ。FMHは先月16日に発表した「改革アクションプラン」の中で、今後5年間で総額2500億円の成長投資を行う方針を打ち出している。清水社長はWBSの番組内で、この2500億円のうち、少なくとも半分にあたる1250億円以上をアニメなどのコンテンツ事業の普及に費やしたいと明確に述べた。年平均にすると250億円を超えるこの目標額は、年間約5500億円の売上高を誇るFMHにとって、財務的に不可能な数字ではない。しかし、コンテンツ事業単体への投資額としては極めて大規模であり、その本気度がうかがえる。
フジ・メディア・ホールディングスが進める2500億円の成長投資計画、特にアニメ事業への巨額投資に言及する清水社長
斜陽のテレビ業界からの脱却、アニメ事業を収益の柱に
この巨額投資計画の背景には、フジテレビが描くビジネスモデルの抜本的な変革がある。長年、テレビ番組を制作・放送し、そこから広告収入を得るという従来型の放送事業は斜陽化が指摘されて久しい。フジテレビも例外ではなく、放送収入が年々約100億円ずつ減少しているという現実がある。清水社長の狙いは、この放送事業への依存度を減らし、代わりに高まる需要のあるアニメなどのコンテンツを積極的に制作し、国内外の様々な媒体へ販売することで新たな収益源を確立することだ。世界的に人気が高い日本アニメを戦略的に活用し、ビジネスの軸足を移していくビジョンは、現在のテレビ業界を取り巻く厳しい状況を鑑みれば、非常に理にかなったものと言えるだろう。
まとめ
フジテレビの清水賢治社長が株主総会を前に表明した1250億円超のコンテンツ事業投資計画は、単なる事業拡大ではなく、FMHのビジネスモデルを従来の放送事業からコンテンツ制作・販売へと大胆にシフトさせる戦略の一環である。この計画は、現在FMHが直面しているダルトン・インベストメンツとの委任状争奪戦という状況下で、株主の支持を得るための重要なアピールでもあり、その成否は今後のFMHの経営だけでなく、日本のテレビ業界全体の構造変化にも大きな影響を与える可能性を秘めている。アニメをはじめとするコンテンツ事業が、FMHの新たな収益の柱となり、斜陽化するテレビ業界からの脱却を成功させるか、その動向が注目される。