日本医科大学が早稲田系列校にのみ推薦枠を設ける理由とは?学長が語る「幅広い教養」の重要性

日本医科大学は、その前身である済生学舎の創立から150年、大学創設から100年を迎える私立医科大学の「御三家」の一つとして知られています。近年、早稲田大学の付属・系属校に限定して学校推薦枠を設けていることが注目されていますが、その背景には単なる学力評価に留まらない、日本の未来を見据えた独自の教育理念がありました。本記事では、日本医科大学の弦間昭彦学長への取材を基に、この特別な連携の真意と、将来の医師に求められる「幅広い教養」の重要性について深く掘り下げます。

日本医科大学と早稲田大学、深い連携の背景

日本医科大学のルーツは、長谷川泰が1876年に創設した済生学舎に遡り、医師の育成機関として150年という長い歴史を誇ります。1897年には、後に世界的な医学者となる野口英世博士もこの学校を卒業しています。このような歴史を持つ日医大は、早稲田大学と2009年に包括協定を締結し、さらに2020年には研究連携の実質的な合意に至るなど、長年にわたり協力関係を築いてきました。系列の高校とも高大接続連携協定を結んでおり、両校の教育連携は多岐にわたります。

日本医科大学の前身となる「済生学舎(さいせいがくしゃ)」創立者の長谷川泰(右)と同校を1897年に卒業した野口英世博士の銅像が並ぶ日本医科大学の前身となる「済生学舎(さいせいがくしゃ)」創立者の長谷川泰(右)と同校を1897年に卒業した野口英世博士の銅像が並ぶ

なぜ早稲田の付属・系属校だけが選ばれたのか?

弦間学長は、早稲田大学の付属・系属校にのみ学校推薦枠を設けた理由について、「経営とは関係ない」と語ります。その背景には、「これからの日本ということを考えればベストの組み合わせ」という信念があります。一般選抜で入学する進学校出身の学生は十分に確保できているため、それ以外の層の学生、特に学力だけでなく「幅広い教養」を持つ学生を確保したいという考えがありました。慶應義塾大学には医学部があるため、日医大側から早稲田大学に働きかけを行い、早稲田大学高等学院、早稲田大学本庄高等学院、そして早稲田実業学校にそれぞれ2人ずつ、計6人の学校推薦枠が設けられることになりました。

「鉄緑会」だけでは補えない「幅広い教養」

弦間学長は、私立医科大学医学科に高い合格率を誇る「鉄緑会」などで学ぶ進学校の学生が「ストイックに学ぶトレーニングをかなりやっている」と評価しつつも、過酷な受験対策に追われるあまり、「受験に関係のない本を読む時間」や「人間関係」が限定されがちであると指摘します。彼らが「必死に勉強していて、部活動にのめりこむとか、いわゆる普通の高校生活を送っている人は少ない」と感じているのです。

一方で、大学受験がない付属校の学生は、多様な経験を通じて「幅広い教養」を身につける機会に恵まれています。学長は、「例えば、精神科志望の生徒は『フロイト』や『木村敏』を読んでいた」と具体例を挙げ、このような教養が医師にとって不可欠であると強調します。指定校推薦制度を通じて、医師に向いているかどうかをじっくり見極めることができ、長い目で見れば、早稲田から入学した学生は「いい医師になる」と期待を寄せています。この学校推薦制度は2022年から導入され、すでに第一期生が学んでいます。

日本医科大学が早稲田大学との特別な連携を通じて目指すのは、単なる知識の詰め込みではない、人間性豊かな医師の育成です。学力はもちろん重要ですが、それ以上に、多様な視点と深い教養を持ち、患者に寄り添える医師を育むことが、日本の医療の未来を支える上で不可欠であるという強いメッセージが込められています。