上田竜也 初小説『この声が届くまで』10年間の執筆と“信念”の裏側

KAT-TUNの上田竜也が初めて手掛けた小説『この声が届くまで』(KADOKAWA)は、自身の活動の原点である音楽をテーマに、自身の経験や思いを深く反映させた作品です。2025年3月のグループ解散を控える中で発表された本作は、10年という長期間にわたる執筆を経て完成しました。この小説の背景には、メンバーとの関係性、表現における葛藤、そして上田自身の揺るぎない“信念”がありました。

小説『この声が届くまで』について語る上田竜也小説『この声が届くまで』について語る上田竜也

小説執筆の背景とKAT-TUNメンバーの脱退

上田は、KAT-TUNが2016年に3人目のメンバーを失った当時の心境について、「とにかく1人1人が頑張らないといけないという気持ちでした。本人が決めたことなので、どうしようもなかったですね」と冷静に振り返ります。小説の主人公であるバンド「zion(シオン)」の龍が、学生時代からの仲間であるマサの脱退を機に奮起し、武道館を目指すというストーリーは、この実体験と重なる部分があります。

龍が仲間の離脱に戸惑う場面は、上田自身も「似たような感じはあった」と認めつつも、心境は複雑だったようです。「1人目が抜けた時点で結束はあったはずなんですよ。3人目が抜けたからって団結したというよりは、俺は正直、ちょっと落ちちゃった。結局わからないですね」。それでも彼がグループに残り続けたのは、「ファンを楽しませたいっていう思いはずっとありました。それは抜ける理由にはならない。1度も抜けようと思ったことはないです」という強い意志があったからです。デビュー当時の「やり続けるものだと思ってた」という意識も、その芯の強さに通じています。

KAT-TUN上田竜也ソロコンサートにサプライズ登場した中丸雄一と共にパフォーマンスする様子KAT-TUN上田竜也ソロコンサートにサプライズ登場した中丸雄一と共にパフォーマンスする様子

創作への思いと作品に込めたメッセージ

小説の執筆はスマートフォンのメモ機能で行われ、その存在はメンバーにも秘密にされていました。「こっそりというわけじゃないけど、言わないタイプなんで。全然、何にも言ってなかったです」。彼に影響を与えたのは小説よりも漫画で、『ジャンプ』『マガジン』『サンデー』といった週刊誌や『カイジ』のような青年誌を多く読んでいたといいます。

作中に登場するバンド名「zion」(逆から読むと“ノイズ”)は、友人のアイデアを借りたもので、「逆読みで意味があるって聞いて、“それいいね”って」採用されました。物語の8割はフィクションでありながらも、主人公・龍の思考は「俺のコピー」であり、「共感できることしか書いてないし、メンタル面はかなり投影されてると思います」と、作品に自身の内面が強く反映されていることを明かしています。

自身の表現の幅が広がったという実感はないものの、10年前に思い描いたことを実現できたという達成感はあります。「ただ10年前に描きたかったことを、10年かけて実現できた。それだけです」。この小説は彼にとって新たな「スタート地点」でもあるのです。

表現者としての葛藤とファンへの思い

今後の展開として、コミカライズなどの夢はありますが、「まずはこの小説が多くの人に読まれない限り先はない」と考えています。上田は計画を事前に語るタイプではなく、「やることが決まってから、“こういうことやります”って報告するスタイルなんです。先に言っちゃうと、できなかったときにがっかりさせるだけですから」と、自身の「美学」を語ります。

小説の中で龍が感じる「伝わらないもどかしさ」は、上田自身の実感から来ています。「克服できてないかもしれない。何回言っても伝わらないと、落ちちゃう」。しかし、この5~6年でファンに対してはきちんと伝えようという意識が芽生えたと言います。以前はファンにも多くを語らず、それが誤解を生んだこともあったため、「それじゃダメだなって」考えを改めました。一方で、身近な人間や事務所関係者に対しては、誤解されても「もう“いいや”って思っちゃうこともある。めんどくさいし、俺は俺でやるわ、ってなる」と、近しい相手ほど諦めてしまう一面も率直に語っています。この一連の言葉からは、表現者としての彼の真摯な姿勢と、複雑な内面が垣間見えます。

出典:
https://news.yahoo.co.jp/articles/181261107fd133ed32e99b30fb4dac36497e561a