■名誉毀損容疑での“異例の逮捕”
SNSを使ったニセ情報の拡散や特定の個人を攻撃する誹謗中傷がなくならない。ソーシャル・ネットワーキング・サービスの略がこのSNSで、フェイスブック、X(旧ツイッター)、ライン、ユーチューブ、インスタグラム、ティックトックなどをひっくるめて指す。
SNSの持つマイナスの側面が他者を深く傷付け、自殺に追い込むなど大きな社会問題となっている。「SNSの病理」である。かつてSNSが普及すれば、だれもが自分の意見を自由に発信でき、より多くの人と意見交換が可能となる、と期待された。しかし、現実は違った。プラスの面ばかりではなかったのである。
なぜ人はSNSのニセ情報を鵜呑みにするのか。どうして人はSNSのニセ情報を拡散して特定の個人を攻撃するのだろうか。N党の立花党首の逮捕をきっかけにSNSの病理について未熟ながら考察してみたい。
政治団体「NHKから国民を守る党」の立花孝志党首(58)が11月9日、逮捕された。「NHKをぶっ壊す!」と連呼して一度は国会議員にまでなったあの人物である。逮捕の容疑は兵庫県知事の内部告発問題に絡み、竹内英明元県議(当時、50歳)=今年1月に死亡(自殺とみられる)=の名誉を傷つけたという名誉毀損容疑である。
死者に対する名誉毀損容疑での刑事立件は異例だ。兵庫県警は「悪質性が高いうえ、証拠隠滅と逃亡の恐れがあった」と逮捕の理由を明らかにしたうえで、逮捕容疑の内容について次のように発表した。
立花容疑者は昨年12月13〜14日、街頭演説で「何も言わずに去っていった竹内議員は、めっちゃやばいね。警察の取り調べを受けているのは多分間違いない」と発言した。竹内氏が亡くなった後の今年1月19〜20日には、Xやユーチューブに「竹内元県議は県警からの継続的な任意の取り調べを受けていた」「明日逮捕される予定だった」と虚偽の情報を投稿した。こうした行為によって竹内氏の名誉を著しく傷つけた疑いがある。
■「2馬力選挙」と「課金システム」の影響
立花容疑者による虚偽や誹謗中傷行為が大きな問題になったのが、兵庫知事選(昨年11月17日、投開票)だ。兵庫県議会の全会一致で不信任が決議されたことを受けた、斎藤元彦知事(48)の出直し選挙だった。不信任の発端は斎藤氏のパワハラ疑惑を元県幹部が内部告発したことだったが、告発後にこの元県幹部は亡くなった。自殺とみられている。当初、斎藤氏の再選は難しいとの見方が強かった。しかし、斎藤氏はSNSを駆使して圧勝し、世間を驚かせた。
この圧勝の要因とみられるのが、立花容疑者の前代未聞の言動だった。自ら知事選に出馬したにもかかわらず、立花容疑者は「斎藤前知事を当選させる」と公言し、斎藤氏擁護の街頭演説や情報発信を続け、その結果、SNS上に「斎藤さんは悪くない」との投稿が増えていった。いわゆる2馬力選挙である。
竹内氏は県議会百条委員会の委員だった。昨年10〜11月の兵庫県知事選の期間中、百条委で知事の斎藤元彦氏の疑惑を追及する様子がSNSで拡散され、竹内氏を中傷する投稿が相次いだ。発端は立花容疑者のニセ情報の投稿だった。






