中国海軍の空母「遼寧」と「山東」が、近年、日本の排他的経済水域（EEZ）内外で活動を活発化させている。特に5月以降、沖ノ鳥島や宮古島周辺での訓練が確認されており、その活動範囲は拡大傾向にある。さらに3隻目の最新空母「福建」も、黄海で艦載機の発着艦訓練を行ったと報じられており、中国の海軍力増強と活動域の拡大は国際社会の警戒感を高めている。海外メディアは、中国がこれらの活動を通じて既成事実化を図る狙いを指摘している。
中国空母「遼寧」「山東」の活動海域拡大
米アメリカ海軍協会は、中国海軍の空母「遼寧」と「山東」の動きを報告。6月16日時点で両空母打撃群はフィリピン・ルソン島東方のフィリピン海で活動を継続していた。日本の統合幕僚監部発表によると、遼寧は5月26日、山東は6月6日までに同海域に進入。中国空母の活動海域が従来の南シナ海や台湾周辺から、日本の最南端である沖ノ鳥島周辺海域まで拡大した点が注目される。
防衛省による追跡記録では、遼寧は6月14日に沖ノ鳥島南東約609キロの位置において、艦載機発着艦訓練を約90回実施。翌15日には同島南方約449キロに接近し、16日には南西約599キロの海域へ移動した。山東もまた、6月10日から16日にかけ沖ノ鳥島周辺で活動、16日には宮古島南東約779キロで約30回の発着艦訓練を実施している。
日本近海で活動する中国空母遼寧と山東 (防衛省報道発表資料)
「第一列島線」を越える戦略的意図
5月以降の活動活発化を受け、中国軍の封じ込めを図るアメリカも警戒感を強める。ニューヨーク・タイムズ紙は、中国海軍空母2隻が「日本の島々という天然の防壁を越え」太平洋で初めて共同演習を実施したと報じた。中国は、日本の九州南端から沖縄、尖閣諸島、台湾付近を経てフィリピン、ベトナムに至る仮想のライン「第一列島線」を対米戦略の要と位置づける。このラインを越えた演習は、有事の際、日本だけでなく同盟国アメリカに対しても、西太平洋の支配権を争う能力を示すものと同紙は分析している。
就役迫る最新鋭空母「福建」の技術革新
中国は空母の隻数増だけでなく、性能も向上させている。米CNNによると、最新空母「福建」は今年5月、黄海で艦載機発着艦作業を実施した。排水量約8万トンの「福建」は、米国外建造では最大級とされ、航空機約50機を搭載可能（遼寧/山東の約40機を上回る）。5月演習では、搭載する先進的な電磁カタパルトシステム（EMALS）を用いた初の発着艦演習を行った。「福建」の艦載機はEMALSにより、スキージャンプ式を用いる遼寧/山東より重い兵器や燃料搭載での離陸を可能にし、長距離攻撃能力を高める。CNNは「世界でこのシステムを持つのは、米海軍最新空母ジェラルド・R・フォードだけだ」と報じ、その技術的優位性を強調した。
近年の中国海軍による空母の活動は、活動範囲を拡大し、技術的進歩を見せている。「遼寧」「山東」による日本周辺EEZ接近や「第一列島線」越えは、中国の海洋進出戦略の新段階を示唆。最新鋭の「福建」の高性能カタパルト試験は、将来的な西太平洋での影響力強化と既存の安全保障環境を変える可能性を示唆しており、日本含む関係各国は引き続きその動向を注視する必要がある。
参考文献：
- 防衛省 統合幕僚監部 報道発表資料
- アメリカ海軍協会 (U.S. Naval Institute)
- ニューヨーク・タイムズ (The New York Times)
- CNN
