SNSに潜む「サイレントキラー」の罠:高血圧と高血糖、医師が警鐘を鳴らす本当の危険性

現代社会において、SNSやYouTubeは情報収集の重要なツールとなっています。しかし、健康に関する情報、特に高血圧や高血糖といった生活習慣病については、医学的根拠の乏しい、あるいは誤解を招くような情報が拡散されやすい傾向にあります。「血圧は160まで大丈夫」「塩分制限は不要」「血糖値が2000だった」といった過激な言葉に触れ、「自分は大丈夫だろう」と安易に考えてしまう人も少なくありません。しかし、これらの情報が時に命に関わる危険を招く「サイレントキラー」と呼ばれる病態を見過ごす原因となりかねません。本記事では、専門医の見解に基づき、高血圧と高血糖にまつわる誤った情報がもたらすリスクを明らかにし、適切な知識と自己管理の重要性について深く掘り下げます。

「サイレントキラー」高血圧の真実:SNS情報に潜む危険

誤解を生むSNS情報と医学的基準

SNS上で散見される「血圧は160まで大丈夫」「塩分制限は不要」といった情報は、しばしばインフルエンサーや有名医師と称する人物によって語られ、多くの人々に「大丈夫なんだ」という誤った安心感を与えています。しかし、これらの主張に医学的な根拠はありません。えびな脳神経クリニック理事長の尾﨑聡医師は、「診察室で140/90mmHg以上は高血圧です。治療の目標は130/80mmHg未満、家庭血圧なら125/75mmHg未満が理想。160まで大丈夫というのは誤った情報です」と明確に警鐘を鳴らします。

血管を蝕む高血圧:脳卒中のリスク

高血圧が一番恐ろしいのは、脳の血管に与えるダメージです。高い圧力が長時間かけられ続けると、血管の壁は少しずつ傷んで薄くなります。その結果、脳の深い部分にある細い血管が破れると、深刻な脳出血を引き起こします。さらに恐ろしいのは、脳動脈瘤の存在です。これは脳の血管の一部にできたコブのようなもので、血圧が高くなると風船のように膨らみ、ある日突然破裂する危険性があります。破裂すればくも膜下出血などを起こし、生命に危険を及ぼすだけでなく、重篤な後遺症を残す可能性も高いです。高血圧と診断された場合、これらの血管破裂のリスクを抑えるためにも、適切な血圧コントロールが不可欠なのです。

低血圧も要注意:脳の酸欠が招く認知症

しかし、単に「血圧は低いほうがいい」というわけではありません。降圧薬の普及や減塩習慣の定着により、かつて日本人の死因のトップだった脳卒中による死亡者は減少傾向にあり、特に脳出血は劇的に減少しました。このことは血圧コントロールの重要性を示していますが、尾﨑医師は「脳は常に多くの酸素と栄養を必要としており、血圧が低すぎると血流が脳まで十分に届かず、脳の一部が酸欠状態になり、小さな脳梗塞を起こすことがあります」と指摘します。「認知症かな」と思って受診したら、実は脳に小さな梗塞がいくつもできていた、というケースも少なくないとのこと。これは血圧が下がりすぎていたことが一因である可能性があり、大切なのは血圧を「適正な範囲」に保つことなのです。

症状なき進行:定期健診と自己測定の重要性

多くの人が「自分は大丈夫」と思い込みがちですが、尾﨑医師は「実際には症状がないまま高血圧や低血圧が進んでいるケースが少なくない」と語ります。これが「サイレントキラー」と呼ばれる所以です。自覚症状がないまま脳や心臓に負担をかけ続けてしまうことがあるため、定期的な健康診断と、家庭での自己測定が欠かせません。家庭血圧は朝と晩に測るのが基本で、診察室での測定よりも日常の状態を正確に反映します。日々の測定を習慣にすることは、自分の体を守る最初の一歩となるでしょう。

自宅で血圧を測定する様子を示すイメージ画像。高血圧の自己管理と早期発見の重要性を象徴。自宅で血圧を測定する様子を示すイメージ画像。高血圧の自己管理と早期発見の重要性を象徴。

命を脅かす「高血糖」の落とし穴:SNSの極端な情報に惑わされないで

「血糖値2000」の衝撃と現実の危険ライン

最近、SNS上で著名人が「血糖値が2000だった」と冗談交じりに投稿し、話題となりました。しかし、五良会クリニック白金高輪理事長の五藤良将医師は、「血糖値2000というのは医学的にはありえない値です。実際にそんな状態になれば意識を失い、即座に集中治療が必要になります」と明言します。極端な数字が拡散される一方で、「実際にどの数値が危険なのか」「その数字がどれほど危険か」を正しく理解している人は意外と少ないのが現状です。SNSではインパクトのある数字が独り歩きしやすいため、鵜呑みにしないことが大切です。

緊急事態!2つの命に関わる高血糖状態

ある水準を超えて血糖値が高い状態が続くと、生命の危険が生じるだけでなく、長期的な合併症や老化のリスクも抱えることになります。五藤医師は、特に注意すべき緊急性の高い高血糖状態として以下の2つを挙げます。

  1. 糖尿病ケトアシドーシス(DKA)
    「血糖値が200mg/dLを超えると、体は”糖を利用できない”と誤認し、脂肪を分解してケトン体を過剰に作ります。その結果、吐き気、腹痛、深く速い呼吸、意識障害といった危険な症状が出てきます。」
    特に注意が必要なのが、近年広く使われているSGLT2阻害薬です。糖尿病治療薬として世界的に推奨されていますが、ダイエット目的で服用する人も増えています。「この薬は腎臓から糖を排泄する働きがあり、体重減少や臓器保護作用の面から注目されています。しかし服用によって『正常血糖DKA』と呼ばれる、血糖値が200mg/dL未満でも起こるタイプのケトアシドーシスが発症することが知られています。体調不良時や手術の前後には服用を一時中止するなど、必ず医師の指示を守る必要があります。ダイエット目的での服用は医師として推奨できません。」

  2. 高浸透圧高血糖状態(HHS)
    「血糖値が600mg/dLを超えると、体液が失われ血液が濃縮します。高齢の2型糖尿病患者に多く、意識障害やけいれんを伴い、死亡率はDKAよりも高いとされています。」
    急激な血糖値の上昇は、200mg/dL台でも危険な場合があります。さらに600mg/dLを超えれば緊急事態であり、「血糖値2000」が現実的な数値ではないことが改めて理解できます。

慢性的な高血糖が招く合併症と老化のメカニズム

一時的な高血糖だけでなく、慢性的に血糖値が高い状態が続くことも非常に危険です。糖尿病は、心筋梗塞、脳卒中、腎不全、失明といった様々な重篤な合併症の温床となります。近年、特に注目されているのが「AGEs(終末糖化産物)」と呼ばれる老化物質です。五藤医師は、「AGEsは糖が体内のたんぱく質や脂質と結びついてできる老化物質です。血管を硬くし炎症を引き起こします。AGEsが受容体(RAGE)と結合すると慢性炎症が続き、合併症だけでなくアルツハイマー病や老化そのものを加速させることがわかっています」と説明します。

血糖値の乱高下もリスク:食生活と自己管理の鍵

また、血糖値が高どまりするだけでなく、乱高下することも体には大きな負担となります。「血糖値が高どまりするのも危険ですが、乱高下するのもリスクとなります。急上昇すると血管内皮を傷つけ、急降下すると動悸や冷や汗、強い眠気を招く。こうした変動の繰り返しは、血管老化を加速させ、心筋梗塞や脳梗塞のリスクを高めます」と五藤医師は警鐘を鳴らします。特に白米やパン、甘い飲料などは血糖を急上昇させやすい食品です。食後の強い眠気は、血糖値変動のサインかもしれません。

実際には、血糖値が200mg/dL前後では症状が出ないことも多く、健康診断で初めて糖尿病を指摘される人も少なくありません。だからこそ、「健診で血糖値やHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)を定期的に確認することが欠かせないのです」と五藤医師は強調します。HbA1cは、血液中のヘモグロビンのうち糖と結合しているものの割合を測定した値で、過去1~2ヵ月の血糖値の状態を知ることができます。40代以降は年1回の健診を習慣にすることが推奨されており、生活習慣の改善で正常値に戻せる可能性もあります。糖尿病リスクが高い人や治療中の人には、家庭用血糖測定器や持続血糖測定(CGM)の活用も有用です。センサーを腕に貼ってスマートフォンで血糖の推移を見られる機器が普及しており、「どの食事で上がりやすいか」「夜間に下がりすぎていないか」まで把握できるため、日常管理に非常に役立ちます。

結論:正確な知識と適切な管理で健康寿命を延ばす

高血圧と高血糖は、ともに自覚症状が少ないまま進行し、脳卒中や心筋梗塞、糖尿病合併症など、命に関わる重篤な病態を引き起こす「サイレントキラー」です。SNSなどの情報に惑わされることなく、専門医の正確な知識と指導に基づいた適切な管理が不可欠であることを本記事は示しています。定期的な健康診断や家庭での自己測定を通じて自身の体の状態を正確に把握し、必要であれば早期に医療機関を受診することが、健康寿命を延ばすための最も重要なステップとなります。日々の生活習慣を見直し、専門家と連携しながら、自身の健康を守る意識を高めましょう。

参考資料