高市早苗氏「馬車馬発言」の波紋:フォトジャーナリスト安田菜津紀氏が問う「命を支える仕組み」

女性初の首相候補として注目された高市早苗氏(64)が自民党の総裁に選出された直後、「全員に馬車馬のように働いてもらう。私自身もワーク・ライフ・バランスという言葉を捨てる」と発言し、その波紋が広がり続けています。これに対し、長時間労働で兄を亡くした経験を持つフォトジャーナリストの安田菜津紀氏(38)は、「兄のような人を支える仕組みこそ必要ではないか」と問いかけます。

フォトジャーナリスト安田菜津紀氏、長時間労働問題について語るフォトジャーナリスト安田菜津紀氏、長時間労働問題について語る

忘れられない兄の死と「ワーク・ライフ・バランス」の問い

高市氏の「ワーク・ライフ・バランスを捨てる」「馬車馬のように働いていただく」という言葉を聞き、安田氏は大きな衝撃を受けました。その脳裏に真っ先に浮かんだのは、13歳年上の兄のことでした。中学3年生の時、チェーン居酒屋の店長を務めていた兄は、何カ月も休みがない長時間労働の末に命を落としました。兄が亡くなる数日前の電話で感じた異変に対し、「どうしたの?」と声をかけられなかったことへの後悔は、今も安田氏の心の奥に深く刺さり続けています。

「美徳」にすり替わる長時間労働と社会への影響

安田氏は、大人になってから、命が奪われるような長時間労働を「是」とする社会ではなく、人が生きられる社会を願い、自身の兄の経験を発信してきました。しかし、高市氏の発言は、「兄が生きられたはずの社会がまた遠のいてしまった」という感覚をもたらしました。国のリーダーとなる政治家の言葉は社会の規範に大きな影響を与えるため、極めて慎重であるべきです。ワーク・ライフ・バランスを捨てて働くことを「美徳」のように語ることは、人々を都合よく働かせたいと考える人々に長時間労働を促す「お墨付き」を与えかねません。実際、高市氏の発言以降、一部の実業家や経営者たちが「馬車馬のように働くのはなぜ悪いのか」といった内容をSNSで発信する動きが見られます。

高市氏の発言は、個人の働き方の自由を尊重する一方で、過労死やメンタルヘルスといった深刻な社会問題への意識が不足していると指摘されています。日本社会全体として、働くことの意味や、命を守るための労働環境について、改めて深く考える必要性が浮き彫りになっています。

結論:命を守る持続可能な労働環境の構築へ

高市氏の「馬車馬発言」は、単なる一政治家の言葉にとどまらず、日本社会が向き合うべき長時間労働の根深い問題、そして働き手の命と健康を守る責任について、改めて議論を巻き起こしました。私たちは、個人の努力や根性論に頼るのではなく、誰もが安心して働き、生きられるための具体的な「仕組み」を社会全体で構築していく必要があります。政治の言葉は、その方向性を示す羅針盤となるべきであり、労働者の尊厳と命を最優先するメッセージこそが、真のリーダーシップとして求められています。

参考資料