誰しも、人とのコミュニケーションで誤解が生じ、説明や訂正に疲れてしまう経験があるのではないでしょうか。「言いたいことが伝わらない」「どうしてわかってもらえないのだろう」と悩むことは尽きません。特に人間関係においては、誤解がストレスや不安の大きな原因となることもあります。このような「訂正疲れ」から解放され、もっと気楽に、そして建設的に人と関わるにはどうすれば良いのでしょうか。本記事では、ベストセラー著者である精神科医の視点から、誤解の本質とその対処法について深掘りします。
人はなぜ誤解するのか?理解は「完全」ではない
私たちは、相手の考えていることや心の内を100%正確に知ることはできません。どんなに親しい間柄でも、どれほど丁寧に言葉を尽くしても、受け取り方には必ずそれぞれの解釈が入ります。これは、一人ひとりが異なる経験や価値観を持っているからです。だからこそ、コミュニケーションの過程で誤解が生まれるのは、むしろ自然なこと。人は全員が、程度の差こそあれ、お互いを少なからず誤解していると言えるでしょう。この「誤解は起きるものだ」という前提に立つことが、最初の重要な一歩となります。
コミュニケーションにおける、対話する人物とそれぞれの思考・感情のイメージ図
「訂正疲れ」から解放されるには:誤解を「無理に直さない」という選択
誤解されたとき、私たちはつい「違う」「そうじゃない」と訂正したくなります。相手に正確に理解してほしいという気持ちは当然です。しかし、そもそも誤解している相手は、こちらの真意を受け取りにくい状態にあることが多いです。その場で一時的に納得したように見えても、時間が経つとまた元の解釈に戻ってしまうことも珍しくありません。すべての誤解を一つひとつ解こうとすることは、非常に多くのエネルギーを消耗し、「訂正疲れ」の原因となります。時には、「誤解されてもまあいいか」と受け流すこと、つまり、相手の誤解をすべて訂正しようとしない選択も大切です。これは諦めではなく、自分自身の心の平穏を保つための賢い対処法なのです。
自分の「言葉」を大切にする意味:自信を持って表現する
誤解されることを恐れて自分の意見を言わなくなったり、あるいは常に訂正ばかりに気を取られたりしていると、自分が本当に何を考え、何を感じているのかが分からなくなってしまいます。コミュニケーションに使うエネルギーは、誤解の訂正ではなく、自分の内面を素直に表現することに向けるべきです。あなたの考えや感覚は、たとえ他の誰かと似ているように見えても、あなた独自の視点や経験に基づいたオリジナリティを持っています。その独自の「言葉」で表現された思いは、誰かの気づきになったり、新たな対話のきっかけになったりする可能性を秘めています。自分の言葉に自信を持ち、発信することを止めないでください。
誤解を恐れず、伝えることの価値:「正しさ」より「対話」を楽しむ
人と対話する究極の目的は、必ずしも誤解を完全にゼロにすることではありません。むしろ、「誤解はつきものだ」という前提の上で、自分の考えや感情を相手に伝えるプロセスそのものに価値があります。「私は今こう感じている」「私はこのように考えている」と表明すること。その表明が「正しい」か「間違っている」かという評価は、本質的な問題ではありません。対話は、互いの「言葉」を交わし、誤解しながらも、少しずつ共通点や異なる視点を発見していく過程です。このプロセスこそが、人との関わりの面白さであり、深みを生み出す源泉と言えるでしょう。
まとめ:「訂正疲れ」から解放され、心地よい人間関係を築くために
誤解はコミュニケーションにおいて避けられない自然な現象です。すべての誤解を訂正しようとすると、心身ともに疲弊し、「訂正疲れ」を引き起こしてしまいます。大切なのは、「誤解は誰にでも起こる」と受け入れ、「無理にすべてを直そうとしない」という姿勢を持つことです。そして、自分の感じていること、考えていることを素直に「言葉」にして表現することに自信を持ちましょう。対話の目的を「正しさの追求」から「互いの理解を深めるプロセスを楽しむこと」へとシフトすることで、コミュニケーションはもっと気楽で豊かなものになります。誤解を恐れずに自分の言葉を伝え、相手の言葉に耳を傾ける。この意識が、より心地よい人間関係を築く助けとなるでしょう。
参考資料
- 精神科医 Tomy 著書、および関連の特別寄稿記事