「老い」は本当に幸せを奪うのか?スタンフォード式長寿研究が示す真実

人は歳を重ねるごとに肉体的な衰えや病気のリスクが高まるため、若い世代にとっては「老い」が不自由さを伴うものとして想像されがちです。しかし、アメリカの研究によれば、多くの高齢者が活動的で自立した生活を送り、比較的幸福に過ごしていることが明らかになっています。世界的な長寿研究の第一人者であるスタンフォード大学長寿研究所所長のローラ・L・カーステンセン博士の著書『スタンフォード式 よりよき人生の科学』から、超高齢社会を迎える日本にも響く示唆に富む知見をご紹介します。

人間は「いま」を生きるようにできている

人間には「いま」を大切にする生物学的な傾向があり、この傾向を無視して将来のことばかり考えると、私たちは多くの場合、どうすれば良いか分からなくなってしまいます。人生の計画を立てる場合でも、そのほとんどは人生の始まり、例えば子どもの誕生や成長に関するものです。親は、子どもが胎内にいるときから良い大学に入学するところまで、細かくその人生を管理しようとします。

自立できる年齢になった子どもたちは、無限の時間を使って空想にふけったり、友人や助言者と語り合ったりしながら、仕事を選び、自分に合ったパートナーを見つけ、新たな家庭を築きます。しかし、多くの人が定年退職の日について漠然としたイメージは持っているものの、退職後に一体何をしているか具体的に考えることは稀です。むしろ私たちは、65歳以降の人生を、運や遺伝子によってもたらされた「残りもの」だと見なしがちです。

「老い」は幸せを奪う? 写真/Shutterstock「老い」は幸せを奪う? 写真/Shutterstock

「老い」の計画を避ける心理と社会的な課題

晩年の計画を立てることは、喪失、衰弱、そして死を連想させるため、多くの人が計画そのものに不快感を覚え、先延ばしにしてしまいます。人々はしばしば「老いは突然やってくるものだ」と語り、ある日鏡に映る自分の中に、見知らぬ老人の姿を見出すことがあるのです。

これは個人だけの問題ではありません。アメリカの社会保障局と公的医療保険制度(メディケア)は、それぞれ1930年代と1960年代に設立・導入されましたが、当初は人々が数年間の給付を受けた後に亡くなることを前提に設計されていました。現代のように長寿化が進んだ社会において、老いに対する個人の認識と社会システムの設計との間には大きなギャップが存在します。

まとめ:老いと向き合う新たな視点

カーステンセン博士の研究は、「老い」が決して幸せを奪うものではなく、活動的で充実した人生を送る高齢者が多いという事実を提示しています。私たちが「いま」を大切にする生物学的な傾向を受け入れつつ、未来、特に晩年の人生をポジティブに計画する視点を持つことが、よりよい人生を送る鍵となるでしょう。超高齢社会を生きる私たちにとって、このスタンフォード式の知見は、老いに対する固定観念を打ち破り、新たな価値観を築くための重要な示唆を与えてくれます。