近年、日本の都市部を中心に不動産価格の顕著な高騰が続いています。長年住み慣れた家やマンションが、再開発の進行や市場の活況を受けて、かつては想像もしなかったような高額査定を受けるケースが増加しています。しかし、資産価値が帳簿上で増加したことが、必ずしも所有者やその家族の「幸せ」に直結するわけではありません。むしろ、この予期せぬ資産の増加は、家族間での価値観の違いを浮き彫りにし、深刻な相続トラブルや人間関係の亀裂へと発展する潜在的なリスクをはらんでいます。本記事では、具体的な事例を通して、「いつの間にか富裕層」となってしまった家庭が直面しうる相続問題と、それに対する備えについて解説します。
資産価値の急騰がもたらす予期せぬ課題
不動産高騰による予想外の資産増加をイメージした写真
購入時5,000万円のマンションが25年で8,000万円に
「8,000万円……まさか、25年も経って価値が上がるとは」
東京都内の下町と呼ばれる一角で暮らす佐藤誠一さん(仮名、65歳)は、不動産会社から受け取った査定書を手に、その数字に目を疑いました。台所から顔を出した妻の裕子さん(仮名、63歳)に、誠一さんは驚きを隠せない様子で書類を差し出しました。
「このマンションの価値が、買った時の5,000万円から8,000万円に上がったらしい」
2000年に当時40歳だった誠一さんが、懸命に貯めた資金と中堅IT企業のボーナスを投じて購入し、その後ローンを完済した大切な我が家です。交通の便に恵まれ、近所付き合いも温かいこの場所で、佐藤さん一家は長らく穏やかな日々を送ってきました。
しかし、2025年春を迎える頃、不動産市場の活況と地域における再開発計画の具体的な進展が重なり、彼らの住むマンションの価値が大幅に上昇しました。近隣で新たに建設されたタワーマンションの分譲価格が高騰した影響もあり、佐藤さんの自宅も「市場評価8,000万円相当」と査定されるに至ったのです。
帳簿上の富裕層化がもたらす困惑
「まるで宝くじに当たったみたいだけど……」裕子さんは首を傾げながら言いました。「なんだか身の丈に合わない金額で、頭が混乱してきたわ。私たちにはどう扱っていいか分からない、大きすぎる贈り物ね」
誠一さん夫婦はすでに定年退職を迎えており、現在の世帯収入は、誠一さんの年金(月17万円)と裕子さんのパート収入(月8万円)を合わせ、月に約25万円です。これに加えて、2,000万円の預貯金があり、質素ながらも安定した老後生活を送るには十分だと考えていました。ところが、今回のマンション査定により、帳簿上は「資産1億円を超える富裕層」の仲間入りをしてしまったことで、夫婦の間に新たな種類の悩みが生じたのです。この突如として現れた大きな資産価値は、今後の生活設計や、特に子どもたちへの相続を巡って、新たな課題と向き合う必要性を突きつけることとなりました。
まとめ:予想外の資産増加と将来への備え
都市部における不動産価格の高騰は、佐藤さんの事例のように、多くの家庭を予期せぬ形で「帳簿上の富裕層」へと変貌させています。見かけ上の資産増加は喜ばしいことのように思えますが、それが現金化しにくい不動産という形である場合、日々の生活レベルを向上させるわけではなく、むしろ相続税の負担増や、兄弟間での公平な財産分与を巡る争いの火種となる可能性があります。特に、現預金がそれほど多くない家庭にとっては、不動産の価値だけが突出してしまった場合、納税資金の確保や、円滑な遺産分割がより困難になることも考えられます。このため、不動産価値の上昇に気づいた時点で、自身の資産状況全体を把握し、将来の相続に備えた対策を専門家とともに行うことの重要性が増しています。
参照元
https://news.yahoo.co.jp/articles/e541bc5f28de8aa3294c3d2f3a1d12c4d06e7913