令和の子ども プール授業の今:猛暑と改革の波、スイミングスクール「満員」の背景

6月に入り、全国各地の小中学校で「プール開き」の時期を迎えています。近年、記録的な猛暑が続く影響から、屋外に設置された学校のプールではなく、民間の屋内プールでの指導委託を試みる地域も見られます。しかし、これはまだ一部の取り組みにとどまっており、多くの場合、保護者は子どもをスイミングスクールに通わせることを選んでいます。現代の子どもたちを取り巻くプールの現状について詳しく見ていきます。

令和の子どもたちが学校プールで水泳の授業を受ける様子令和の子どもたちが学校プールで水泳の授業を受ける様子

学校プール授業の減少とその背景

子どもの居場所や学びの変化を追うノンフィクションライターのなかのかおり氏は、小中学校のプール授業の現状について言及しています。全国の小中学校のプールは大部分が屋外に設置されており、かつては雨天や低水温が授業の中止理由でしたが、近年は温暖化による「熱中症警戒アラート」が発令されるほどの猛暑により、暑すぎてプールが使用できないケースが増えています。さらに、老朽化したプール施設の修繕には多額の費用がかかるため、学校での水泳授業を廃止した自治体も存在します。

加えて、コロナ禍による授業の中止期間があったこと、そして近年の教員の働き方改革が進んでいることも、学校の水泳授業が全体的に減少している要因となっています。

学校側の対策と水泳教育の課題

こうした状況に対し、小中学校側が現在進めている対策としては、主に以下の3つの動きがあるといいます。日本プール利用推進協会の代表理事、山本彩海氏は以下のように説明します。

  1. 学校プールの拠点化・共同利用: 屋内プールなどを備えた特定の学校を、近隣の学校が共同で利用するパターン。
  2. 民間プールの活用: 民間のスイミングプールに授業を委託し、水泳指導を継続する対応。
  3. 水泳の実技授業の取りやめ: 最悪の場合、実技を廃止し、座学のみとする自治体が増加している。

山本氏は「水泳に関しては、水に慣れ親しみ、水難事故の際に『仰向けで浮いて待つ』といった基本的な自己保全のスキルを体感することが非常に重要だと考えています」と、実技教育の必要性を強調します。

保護者の懸念とスイミングスクールへの集中

小中学生の子どもを持つ保護者は、学校プール授業の変化をどのように受け止めているのでしょうか。豊島区内の公立小学校に通う2年生の子を持つ40代のAさんは、「学校の授業だけでは、正直、子どもが泳げるようになるとは思えません。息子に聞くと、クラスの半分以上がほとんど泳げない状況のようです」と懸念を示します。「プールや海での事故のニュースを見ると、やはり心配になります」と、水泳能力習得への危機感を語ります。

同時に、Aさんは「スイミングスクールに通わせたいと思っても、どこも予約が取れない状況で、30人ものキャンセル待ちと言われました」と、民間施設へのアクセスの困難さを訴えています。

練馬区のスイミングスクールにおけるキャンセル待ちや定員超過の状況を語るスタッフ練馬区のスイミングスクールにおけるキャンセル待ちや定員超過の状況を語るスタッフ

スイミングスクールの「満員」状況

Aさんのように、スイミングスクールへの入会を希望する保護者は増加しており、都内各地のスクールでは「キャンセル待ち」や「満員」の状態が常態化しています。中には「2年待ち」を経験した保護者もいるほどです。

練馬区のあるスポーツクラブのスタッフは現状をこう話します。「学生対象のクラスは、平日の夕方など1クラス40人から50人が常に利用しています。土日にはキャンセル待ちのクラスもあり、特に土曜午前のクラスは最も多く70人規模ですが、こちらも常に満員です。住宅街という地域性もありますが、利用者がここまで増えた背景には、やはり学校でのプール授業が減っていることがあると考えています。保護者や生徒さんからも、学校の授業が年々少なくなっているという話をよく聞きます。」

新宿区のスイミングスクールでも、「小学生のお子様の数は徐々に増えています。大体1クラス10人前後ですが、多いクラスでは20人ほどで指導しています」とのこと。中野区のスイミングスクールスタッフも、「曜日やコースによって多少のばらつきはありますが、基本的には10人から20人程度で、常に定員に達している状態です」と、同様の状況を伝えています。

まとめ

近年の猛暑、施設の老朽化、教員の働き方改革といった複数の要因が重なり、全国的に小中学校でのプール授業が減少し、その内容も変化しています。学校側の対策として民間施設活用や共同利用が進む一方、実技授業自体を縮小・廃止する動きも見られます。これに対し、水難事故への懸念などから子どもの水泳能力習得を重視する保護者は、民間のスイミングスクールへの入会を強く希望しています。結果として、多くのスイミングスクールで定員超過や長期のキャンセル待ちが発生しており、「学校で泳げるようにならない」子どもたちと、水泳を習わせたい保護者の間でミスマッチが生じている現状が浮き彫りになっています。

参考文献