認知症の母の「タンス預金」と物盗られ妄想…疲弊する娘が直面する高齢者介護の現実

認知症が進行する80代の母親(90歳)を持つ七尾純子さん(仮名・60代)は、日々介護の現実に直面している。母親は「女の子とお母さんが来てたでしょ?」と真顔で話すなど、幻覚を見ることも少なくない。また、保険証や財布といった大切なものをどこに置いたか忘れてしまうことが頻繁に起こるようになった。かつて、七尾さんが大量の薬の中から偶然、厚みのある銀行の封筒を見つけたことがあった。その中には、思いがけないものが入っていた(この記事は後編です)。

認知症の母と財産管理の難しさ

七尾さんはこれまで、母親が自宅に隠し持っていた「タンス預金」に触れてこなかった。しかし、母親が要介護1の認定を受け、週に複数回ヘルパーが自宅に出入りするようになると、その多額の現金を自宅に置いたままにするのは防犯上危険だと不安を感じるようになった。

母親に銀行の通帳の数を確認すると、「知らない」という返答。七尾さんが家の中を探した結果、合計4行の通帳と10個の印鑑が見つかった。これらを普段開閉しない金庫に保管することを提案し、一度は母親も同意した。しかし、金庫を閉めた途端に「やっぱり通帳を持ってないと不安だから出して」と強く言い出した。

七尾さんは「どうして出しておく必要があるの? 押し入れや金庫に入れても、家にあることに変わりはないでしょう?」と説得を試みたが、母親は納得しない様子だった。母親は以前転倒してから足が悪くなり、長時間歩くのが困難になっていたため、銀行に行く際には七尾さんか弟が付き添う必要があり、金庫に入れても実質的な不便はないはずだった。しかし、多額の預金が入った通帳を常に手元に置きたがる母親の願望は強く、特に最も金額が多い信用金庫の通帳については、「肌身離さず持っているから金庫から出してほしい」と繰り返し懇願したという。認知症の母親に対して感情的になっても意味がないと理解しつつも、七尾さんはその押し問答に疲弊した。結局、3〜4時間にも及ぶ話し合いの末、残高が最も少ない銀行の通帳を一つだけ母親の手元に残し、他の3つは金庫にしまうことで合意した。

日常生活での懸念と娘の疲労

金銭的な問題だけでなく、日常生活における安全面も七尾さんの悩みの種だった。母親はエアコンがあるにも関わらず、火災の危険がある石油ストーブの使用を好んだ。七尾さんが何度も注意しても、母親は隠れて使用しているようだった。

また、暖かくなりストーブを使わなくなった時期でも、ヘルパーの付き添いや病院への通院のたびに保険証をなくす問題が発生した。母親は5個以上の財布を同時に使っていたため、どの財布に入れたか、あるいはどこかに置き忘れたかを思い出せなくなっていたのだ。

やがて、七尾さんは母親からの電話に出るのが億劫になっていった。それは、電話での会話がしばしば意味不明になったり、全く話が通じなくなったりしたからだ。同じことを何度伝えてもすぐに忘れてしまう母親に対し、七尾さんの疲労感は限界に達しつつあった。

母親は曜日を認識できないため、七尾さんはカレンダーに印をつけることを提案したが、「カレンダーが汚れるから嫌だ」と拒否されたという。部屋が散らかっている現状にも関わらず、カレンダーが汚れることを気にする母親の言動に、七尾さんは呆れるしかなかった。さらに、自宅に出入りする4人のヘルパーの顔を覚えられず、「知らない人が来た!」と騒いだり、ヘルパーが部屋のものに触れることを極端に嫌がり、彼らの後をついて回って「あなた、今何してるの?」と問い詰めるため、ヘルパーたちも困惑していた。

物の盗られ妄想も深刻になり、保険証をなくすたびに「だから他人が出入りするのは嫌なのよ」とヘルパーを疑うようになっていた。

高齢の親と支え合う家族の手高齢の親と支え合う家族の手

結論

七尾純子さんのケースは、認知症の親を持つ家族が直面する厳しい現実の一端を示している。金銭管理の困難さ、日常生活における安全への懸念、そして幻覚や物盗られ妄想といった認知症特有の症状への対応は、介護者の心身に大きな負担をかける。特に、理解や協力を得ることが難しい状況下での介護は、介護者の孤立と疲弊を深める要因となる。この事例は、高齢化社会が進む中で、認知症患者とその家族への社会的な支援や理解の重要性を改めて浮き彫りにしている。

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