会計検査院が海上自衛隊の純国産P1哨戒機の運用状況を調査した結果、エンジンの不具合などが原因で、多数の機体が任務飛行できない状態にあることが判明した。開発・購入などに投じられた国費は2023年度までに計1兆7766億円に上っており、検査院は多額の国費に見合う改善を求めている。
多額の国費投入と可動状況の現状
P1哨戒機は、日本の周辺海域における外国潜水艦や不審船の監視という重要な役割を担っている。特に中国の海洋進出が強まる中、その必要性は高まっているが、実際には一部の機体が任務を遂行できない状況が明らかになった。
P1は米製P3Cの後継として川崎重工業などが国内開発し、2013年に初配備された。2024年9月現在、鹿屋(鹿児島県)、厚木(神奈川県)、下総(千葉県)の各航空基地に計35機が配備されている。防衛装備庁は最終的に計61機を配備予定で、総経費を4兆907億円と見積もる。全額が国費負担だ。
会計検査院は今回、開発や購入、修理など23年度までに金額が確定した計1兆7766億円の支出を算定した。さらに、19~23年度の運用状況を調べたところ、35機のうち監視活動に当たれる機体は限られており、「可動状況は低調」とされた。具体的な機数については、防衛省が情報公開が国家安全を害するおそれがあるとして非公表としたため、検査院も公表しなかった。
今年初の訓練飛行を行う海上自衛隊のP1哨戒機
エンジン腐食、電子機器、部品調達の遅れが主因
検査院は運用低調の原因として、主に三つの点を挙げた。第一に、エンジンの腐食による性能低下だ。海上での長時間飛行により塩分が付着し、素材が腐食していることが判明した。これにより、継続的に一定数の機体が飛行できない状態となっていた。
装備庁は開発中の試験段階で同様の不具合報告を受けていたが、エンジン開発を担ったIHIからの報告を受け、特別な処置は不要と判断していた。検査院はこの当時の判断自体は「必要な検討を行っていた」としつつも、「今後は分析結果を設計に反映させる余地はある」と指摘した。
第二に、目標の情報収集に使う電子機器や、機体に搭載した武器の不具合だ。一部の不具合は、開発時に十分に検討されていなかった可能性が示唆された。
IRフレアを発射するP1哨戒機
第三に、交換が必要な部品の調達遅延がある。国際情勢の急変や半導体不足などが影響し、必要な時期に部品を確保できていなかった。
防衛省の受け止めと今後の課題
防衛省は今回の指摘に対し、取材に「真摯(しんし)に受け止め、引き続き可動状況の最大化に努めていきたい」とコメントしている。
結論
会計検査院の今回の報告は、多額の国費を投じて開発・配備が進められているP1哨戒機に依然として運用の課題が残されている現状を浮き彫りにした。日本の安全保障上、重要な役割を担うP1の「可動状況」を高めるため、防衛省には指摘された不具合の原因究明と抜本的な改善策の実行が強く求められる。
[参考元]: 朝日新聞デジタル / Yahoo!ニュース