映画『国宝』異例ヒットの背景:なぜ松竹ではなく東宝が配給したのか?

映画『国宝』が現在、大きな話題を呼んでいます。日本の伝統芸能である歌舞伎の世界を題材としながら、社会的な関心を集めにくいとも思われがちなテーマにも関わらず、驚異的なヒットを記録しています。上映時間3時間という長尺ながら、公開以来右肩上がりの動員を続け、すでに動員数152万人、興行収入21億円を突破しました。

映画『国宝』とは?物語と俳優陣の熱演

本作は、任侠の家に生まれた主人公・喜久雄が、抗争で父を失った後、上方歌舞伎の名門当主・花井半二郎に見出され、部屋子として引き取られるところから物語が始まります。未来を嘱望された御曹司・俊介と共に、歌舞伎の世界で芸の道を歩む二人の人生が描かれます。

原作は吉田修一氏の同名小説。監督は李相日氏が務め、主人公には吉沢亮氏と横浜流星氏という、現代を代表する若手人気俳優が起用されました。二人の栄光と挫折、そして歌舞伎の美しさが丹念に描かれており、観客から高い評価を得ています。特に、歌舞伎俳優ではない吉沢氏と横浜氏が猛稽古を積み、役を演じ切ったその熱演は、本作の大きな見どころの一つです。

若手俳優、吉沢亮と横浜流星が歌舞伎役者として熱演する映画『国宝』若手俳優、吉沢亮と横浜流星が歌舞伎役者として熱演する映画『国宝』

異例の「東宝配給」:日本の演劇界における松竹との関係

映画の内容は多岐にわたりますが、本作で特筆すべきは「配給元」です。歌舞伎を描きながら、歌舞伎興行の総本山である松竹ではなく東宝が配給したことは、日本のエンターテイメント業界、特に演劇界の構造を知る人々にとっては異例の出来事です。

東京の商業演劇は、東宝と松竹の二大勢力に大別されます。日比谷の帝国劇場や東京宝塚劇場が東宝の拠点としてミュージカル等「洋」が中心であるのに対し、銀座・東銀座の歌舞伎座や新橋演舞場は歌舞伎や新派等「和」が中心です。

商業歌舞伎は現在、松竹の事実上の独占状態であり、国立劇場の公演も松竹の協力なくしては成り立ちません。その松竹の「お家芸」とも言える歌舞伎を題材にした大作を東宝が配給し、しかも大ヒットさせた事実は、業界構造的に極めて興味深い。東宝がなぜ、いかにして歌舞伎の世界をリアルかつ美しく描けたのか、その手腕に関心が集まっています。

まとめ

映画『国宝』は、歌舞伎という日本の伝統芸能を題材にした作品として、その質の高さ、主演俳優の熱演、そして「東宝が配給した歌舞伎映画の異例のヒット」というビジネス的な側面でも大きな注目を集めています。松竹の独壇場であった分野での東宝の成功は、今後の映画界のあり方にも影響を与える可能性があり、文化とエンターテイメントビジネスの両面から興味深い事例として語り継がれるでしょう。

参照元

Yahoo!ニュース / 東洋経済オンライン