「なぜ?」が会話を壊す?プロが語る「良い質問」の核心

「なぜ、そう思うの?」――。この問いは、論理的思考を促す「良い質問」だと一般に考えられがちです。しかし、長年の対話研究に基づけば、実はこの「なぜ?」や「どうして?」といった問いかけは、コミュニケーションに致命的な「解釈のズレ」を生み出し、会話が噛み合わない「空中戦」を引き起こす「最悪の質問」になり得ると指摘されています。この認識のズレこそが、多くの場合、「曇りガラス」を通して世界を見ている状態だというのです。

話題の新刊『「良い質問」を40年磨き続けた対話のプロがたどり着いた「なぜ」と聞かない質問術』では、世界各地で培われた実践・観察に基づいた「賢い質問の方法」、すなわち「事実質問術」が紹介されています。本記事では、同書で明かされているコミュニケーションにおけるNG質問の落とし穴について掘り下げます。

会話が噛み合わない根本原因:「コミュニケーションのズレ」とは

あなたの周りには、「なぜか話が噛み合わない」と感じる人がいるでしょうか?知性や性格の問題ではなく、ただコミュニケーションがうまくいかない、という経験は誰にでもあるかもしれません。その正体は、しばしば無意識のうちに生じている「コミュニケーションのズレ」にあります。

この「ズレ」は、一見、会話が成立しているように見える状況でこそ、気づきにくいものです。

「なぜ?」質問の危険性:解釈のズレと空中戦

従来の「なぜ?」という問いは、相手の思考や意図を引き出すと思われがちです。しかし、「なぜ?」と問われた側は、無意識のうちに自分の「解釈」や「思い込み」に基づいて答えを構築してしまいます。質問する側もまた、相手の答えを自分の解釈で受け止めるため、ここに「解釈のズレ」が生じます。

この「解釈のズレ」が積み重なると、互いに事実に基づかない推測や感情で話し合うことになり、建設的な対話が進まない「空中戦」状態に陥ってしまうのです。

事実質問が明らかにする真実

では、「コミュニケーションのズレ」を防ぎ、より円滑な対話を行うためにはどうすれば良いのでしょうか?ここで鍵となるのが「事実質問」です。事実質問は、「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「どのように」といった、客観的な事実に焦点を当てた質問です。

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会話のズレを防ぐ質問方法を探るイメージ会話のズレを防ぐ質問方法を探るイメージ]

たとえば、上司と部下のこんなやり取りを考えてみましょう。

従来の質問(「なぜ?」や解釈を含む質問):
上司「悩み事があったら、いつも誰に相談していますか?」
部下「指導担当のA先輩に相談しています」
上司「そうですか。A先輩はよく、指導をしてくれていますか?」
部下「はい」
上司「そうですか。これからもよく学んでください」

この会話は一見スムーズに見えますが、「いつも」という部下の解釈や、「よく」という曖昧な基準に基づいています。部下自身が「相談=A先輩」と思い込んでいるか、あるいは建前で答えている可能性もあります。ここにズレが生じる余地があります。

事実質問による対話:
上司「直近、誰かに相談をしたのはいつですか?」
部下「今日のお昼前くらいです」
上司「そうですか。誰に相談しましたか?」
部下「隣の部署のBさんです」
上司「その前はいつか、覚えていますか?」
部下「ええと、昨日の夜にCさんに相談した気がします」

事実に基づいた質問に切り替えることで、「いつ」「誰に」相談したのかという具体的な状況が明らかになり、部下がA先輩以外にもBさんやCさんに相談しているという「事実」が浮かび上がってきました。このように、事実質問は、互いの解釈や思い込みを排除し、客観的な状況を共有することを可能にします。

円滑なコミュニケーションへの一歩は「良い質問」から

コミュニケーションの「ズレ」は、このように、会話そのものは成立しているように見えても、水面下で起きていることが多いのです。この事実に自覚的であるかどうかが、対話の質を大きく左右します。

対話は、質問と応答の繰り返しから生まれます。より良い人間関係やチームワーク、問題解決のためには、質の高いコミュニケーションが不可欠であり、その出発点となるのが「良い質問」なのです。「なぜ?」と問う前に、まずは事実を確認する――この意識が、より深く正確な相互理解への第一歩となります。

Source link: https://news.yahoo.co.jp/articles/b85dd2168e92512ecbc74b05dc0edf8552b73d1a