日本の大学院で中国人留学生指導に苦戦:語学力と専門知識の課題

学歴至上主義と厳しい就職難が常態化する中国社会において、修士号や博士号の取得は社会的評価を高め、国内での就職にも有利に働く。このため、日本で修士課程への進学を希望する中国人留学生が年々増加している。しかし、日本の大学院では、彼らの指導において様々な困難に直面しているのが実情だ。本稿では、日本人教員が経験している具体的な課題、特に語学力と専門知識の不足に焦点を当ててレポートする。

日本語能力の壁:JLPT N1取得者でも苦戦する現実

都内の私立大学で教鞭をとるA教授(50代女性)は、「語学力の低さが指導コストを著しく高めている」と指摘する。日本へ留学する外国人学生の多くは、日本語能力試験(JLPT)N1を取得している。N1は日本の新聞記事や論文を理解できるレベルとされるが、4万字以上にも及ぶ修士論文を日本語で執筆するには、必ずしも十分とは言えない実態がある。

日本の大学院で中国人留学生への指導に苦戦する教員たち日本の大学院で中国人留学生への指導に苦戦する教員たち

実際、中国人留学生の70%以上がN1を取得しているものの、一部の大学院ではN1を必須要件とせず、未取得の学生も存在する。A教授によれば、彼らが大学院入試に合格できるのは、面接の質疑応答に特化した訓練を受けているからだという。しかし、いざ入学してみると日常会話すらままならないケースも少なくなく、2年間で修士論文を完成させ、必要な単位を取得させて修了させることは極めて困難である。教員がマンツーマンで指導し、論文をほとんど書き直すことも珍しくない状況だ。

専門知識の基礎不足:学部レベルからの指導が必須

語学力に加えて、専門知識の不足も深刻な問題として浮上している。関西の私立大学に勤務するB准教授(40代男性)は、「日本語でのコミュニケーションが可能でも、専門科目の知識が欠けている留学生が少なくない」と語る。大学院入試における専門科目の筆記試験対策や口述試験対策は、日本語学校や予備校が手厚くサポートしている。さらに、入試時に提出する修士論文の研究計画書も、日本語学校のチューターが指導し、時に「この教授の研究室なら、こうしたテーマ設定が良い」「このような理論を用いるべき」といった具体的な助言と共に日本語チェックが行われるという。

そのため、「計画書がしっかりしているから」という理由で合格となった学生が、指導が始まると学部レベルで知っておくべき理論や必読書の存在すら知らないという事例が後を絶たない。B准教授は、2年間で修士論文を完成させるためには、根気強くつきっきりで指導する必要があり、自らの場合は学部生が使うテキストから初歩の初歩を教えていると明かす。基礎的な日本語能力と学部レベルの専門知識の不足は、日本の大学院における中国人留学生指導の大きな課題となっている。

今後の課題:研究倫理への懸念も浮上

日本語能力や専門知識の基礎不足が問題視される中、さらに研究倫理上の課題も指摘されている。著作権意識の低さやAIに依存した論文執筆といった具体的な事例も報告されており、今後の指導においてこれらの問題への対応が急務となっている。日本の大学院は、質の高い教育を提供しつつ、多様な背景を持つ留学生の学習を効果的に支援するための新たな方策を模索する必要があるだろう。


参考文献: