天皇皇后両陛下の広島ご訪問と提灯奉迎:歓迎の背景にある問いかけ

戦後80年の節目を迎えるにあたり、天皇皇后両陛下が広島・沖縄をご訪問されたことは、被爆地やかつての激戦地の住民にとって重要な意味を持つ。地元の人々が温かく両陛下を迎え入れる気持ちは、深く尊重されるべきものである。しかし、一部には、こうした皇室のご訪問を自らの影響力誇示に利用しようとする団体が存在し、その「正体」を隠して活動する姿勢には懸念が持たれる。特に右翼組織とされる「日本会議」のような団体の関与は注目に値する。

広島での盛大な提灯奉迎イベント

2024年6月19日夜、天皇ご夫妻が宿泊されたリーガロイヤルホテル広島を見上げる位置にある「ひろしまゲートパーク」では、主催者発表で約5000人もの人々が集まり、「提灯奉迎」が行われた。この模様はテレビ新広島のローカルニュースでも報じられ、現場アナウンサーは「帰宅時間帯と重なるため、スーツ姿の会社員や制服を着た学生の姿も見られます」と伝えた。イベントでは「君が代」斉唱、山陽高校和太鼓部による奉迎太鼓などのアトラクションが行われ、ムードを盛り上げた後、前呉市長の小村和年氏の発声で「天皇陛下、ばんざーい、ばんざーい、ばんざーい」と三唱が行われた。続いて、LEDの光で灯る提灯奉迎が本番を迎えた。

ホテル上層階の部屋の明かりが2度点滅し、両陛下がお出ましになったことが参加者に知らされると、司会者の「みぎー、ひだりー」という合図に合わせ、参加者たちは提灯、ペンライト、あるいは日の丸を左右に振った。両陛下の部屋の提灯も同様に左右に揺れた。その後、部屋に明かりが灯り、お二人の姿が浮かび上がり、集まった人々に軽く会釈をされた。しばらくして、司会者を通じて天皇陛下のお言葉が伝えられた。「多くの皆さんに提灯で迎えていただき感謝いたします。太田川を背に広島の街に浮かび上がる皆さんの提灯の明かりは、とてもきれいでした。皆さんの万歳の声もよく聞こえ、うれしく思いました」。両陛下は集まった人々の熱意に感謝の意を示された。

広島ゲートパークでの天皇皇后両陛下への提灯奉迎で、集まった人々が光を揺らし、ホテルを見上げる様子。広島ゲートパークでの天皇皇后両陛下への提灯奉迎で、集まった人々が光を揺らし、ホテルを見上げる様子。

「5000名」の参加者構成とメディアの沈黙

この提灯奉迎イベントを通じて、参加者が皇室との繋がりを感じたこと自体は意義深いことである。ボランティアとして提灯配布を行った高校生の存在も頼もしく映る。アナウンサーが伝えたように、本当に帰宅途中に偶然参加した人々もいたであろう。しかし、主催者発表で約5000人という多数の参加者のうち、少なからずが特定の団体によって「動員」された可能性について、どのメディアも触れていない現状はどうしたことだろうか。

歓迎の裏側にある組織的な側面と報道の偏り

天皇皇后両陛下の広島ご訪問における提灯奉迎は、表面上は地元住民による心温まる歓迎のように見えた。参加者が皇室への敬愛の念を抱き、繋がりを感じたことは事実であり、その点に異論はない。しかし、その大規模な集まりの背後には、特定の政治的意図を持つ団体が関与し、参加者の一部を組織的に集めた可能性が指摘されているにも関わらず、主要メディアがその点に深く切り込まないことは、報道の公平性という観点から疑問が残る。真に自然発生的な歓迎と、組織的な動員によるイベントとでは、その意味合いが大きく異なる。皇室の権威を利用し、自らの目的を達成しようとする動きが存在するならば、それを検証し報道することは、ジャーナリズムの責務ではないだろうか。今回の広島での奉迎イベントは、表面的な歓迎ムードの裏に隠された、歓迎の純粋性そのものへの問いかけを私たちに突きつけている。