逆流性食道炎は国民病?見過ごされがちな症状と千船病院の専門治療

10人に1人。この数字は、日本における逆流性食道炎の患者数を表しています。食道に炎症は見られなくとも、胸焼けなどの不快な症状に悩む胃食道逆流症(GERD)の潜在的患者は、その倍に上ると言われています。食生活の欧米化や高齢化に伴い、逆流性食道炎の患者数は増加の一途を辿り、今や「国民病」と称されるほどです。このような状況を受け、大阪の千船病院は『逆流性食道炎 診断・治療センター』を立ち上げ、苦しむ多くの人々のための専門医療を提供しています。

止まらない咳…「まさか胃液の逆流が原因とは」

咳が止まらず、喘息やアレルギーを疑い検査を受けても異常なし。胃や食道の内視鏡検査でも問題が見つからず、漢方薬や抗不安薬を処方されても効果がない。ついには「これで改善しなければ精神科へ」と医師に告げられ、途方に暮れる患者さんが千船病院の逆流性食道炎 診断・治療センターを訪れたケースがあります。

センター長の北浜誠一医師は、「検査の結果、この患者さんの咳の原因は胃液の逆流でした。手術を行うと、長年悩まされた咳がピタッと止まったのです」と語ります。原因不明の頑固な咳が、実は胃酸の逆流によるものだったという事例は少なくありません。

胃食道逆流症・逆流性食道炎とは?「二重の門番」の重要性

北浜医師によると、逆流性食道炎の有病率は約10パーセント、胸焼けなどの自覚症状を持つ胃食道逆流症(GERD)の潜在的患者はさらに多く、全体の20パーセントを超えるとも言われています。私たちは食べ物を飲み込むと、上部食道括約筋を通り食道へ。食道はぜん動運動で食べ物を胃へと運びます。この際、胃への入り口には「二重の門番」が存在します。

一つ目の門番は「下部食道括約筋」。普段は固く閉じており、食べ物を飲み込む時だけ開いて胃へと送り込みます。二つ目は「横隔膜脚」と呼ばれる筋肉で、食道裂孔(横隔膜にある食道の通り道)の周囲を支え、括約筋の働きを補助しています。

胃食道逆流症とは、これらの「二重の門番」の機能が弱まり、胃の内容物、特に胃酸が食道へと逆流してしまう状態を指します。これにより、口の中が酸っぱく感じる「呑酸」や「胸焼け」といった症状が引き起こされます。そして、この胃食道逆流症のうち、実際に食道粘膜に炎症が起きている状態が「逆流性食道炎」と診断されます。原因は多岐にわたり、肥満、過食、加齢、体質などが挙げられます。

千船病院 逆流性食道炎診断・治療センターの北浜誠一医師と病院ロゴ千船病院 逆流性食道炎診断・治療センターの北浜誠一医師と病院ロゴ

国民病とも言える逆流性食道炎ですが、その症状は胸焼けだけに留まらず、咳やのどの違和感など、見過ごされがちな多様な形で現れることがあります。適切な診断と専門的な治療が、患者さんの生活の質を大きく改善する鍵となります。千船病院のような専門センターの存在は、正確な診断と効果的な治療への道を開き、多くの人々が症状から解放される希望となるでしょう。

参考文献

  • 千船病院広報誌『虹くじら 05号』 (一部再編集)