石破茂首相が掲げる「令和の日本列島改造」、その柱の一つである「地方創生2.0」が注目を集めている。その基本構想で従来通り最重要視されているのが「東京一極集中の是正」だ。東京圏から地方への若者の流れを倍増させる数値目標が設定されているが、人口が激減する社会において人口を「分散」させる政策には、多くの専門家から疑問の声が上がっている。
話題書『縮んで勝つ』の著者であり、内閣官房の有識者会議委員も務めた人口減少問題の専門家、河合雅司氏は、有識者会議での議論を踏まえ、現実的な人口減少社会に対応するための政策転換の必要性を強く訴えている。
日本の出生数が示す衝撃的な現実
厚生労働省が最近公表した2024年の人口動態統計月報年計(概数)は、日本の出生数が初めて70万人を下回る(68万6061人)という衝撃的な現実を突きつけた。大台割れ以上に深刻なのは、前年比で5.7%減という急激な落ち込みが3年連続で続いていることだ。この急落は、「急落」と表現すべきハイペースであり、同時進行する死亡数の増加と相まって、半世紀以内に日本人人口が「半減」する可能性すら指摘されている。
避けられない人口の激減を前に、少なくなる働き手で地域社会をいかに機能させるかを真剣に考える必要がある。そのためには、人口減少に合わせた社会全体の「ダウンサイジング」が不可欠となる。地域ごとに、ある程度の人口規模を確保すべく集約化を進め、同時にコンパクトな社会を実現することが求められている。
群馬県で地方創生の取り組みを視察する石破茂首相
人口減少に対応する社会のダウンサイジングと集約化
具体的には、中枢中核都市など全国各地にある中心的な地方都市を核とし、周辺地域の人口を寄せ集めて「人口集積地」を形成する手法が考えられる。これは、過去の市町村合併とは根本的に異なる考え方だ。中心となる都市にすべてを集約するのではなく、民間企業や店舗などが経営的に成り立ち得る規模の人口集積を図り、働き手の人数が減っても地域経済や社会サービスが維持できる状態を目指すことが目的となる。
中核となる地方都市をコンパクト化すると同時に、周辺の集落単位ごとに小さな人口集積地を形成し、これらを中核都市と一体的な商圏で結びつける「コンパクト・プラス・ネットワーク」の形も有効な選択肢となり得る。この地域集約化は、限られたリソースで最大の効果を生むために、避けて通れない道と言えるだろう。
人口減少社会に対応した地域集約化と人口集積地のイメージ図
「稼げる地方」への転換と企業経営モデル
同時に、各地を真に「稼げる地方」へと生まれ変わらせることも不可欠だ。それには、形成された人口集積地に存在する企業が、変化した環境に適応し「人口減少仕様」へと転換する必要がある。人口激減社会では内需が大きく縮小するため、これまでの「量的な拡大型」のビジネスモデルは通用しない。
企業は、高付加価値化による「質的な成長」を図り、国内市場だけに依存せず、各企業が直接外国マーケットと取引できるような事業構造への転換が求められる。企業が存続し収益を上げられなくなれば、雇用が創出されず、結果として人口集積地としての持続性も望めなくなるからだ。人口減少社会においても地域の多様性を残そうとするならば、各地域が東京とは異なる独自の経済発展の軸を確立するために、地域全体の力を結集する必要がある。
政策シフトの必要性:「分散と分配」から「集約と投資」へ
こうした現状を踏まえ、政府に求められる政策は、もはや企業経営モデルを現状のまま維持するための補助金を単純に分配することではない。そうではなく、人口減少に耐え得る新たな経営モデルへの転換を促すための「投資」を大胆に行うことだ。すなわち、これまでの「分散と分配」を中心とした政策から、「集約と投資」へとその軸足を大きくシフトすべきなのである。この点については、河合氏に限らず、多くの人口減少問題の専門家が共通認識として持っている提言である。人口減少という現実を直視し、持続可能な社会を構築するための根本的な政策転換が今、強く求められている。
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