JR東日本は、2027年春から新たな夜行特急列車の運行を開始する計画を発表しました。これは、既存のE657系電車を改造した個室中心の列車で、かつての寝台列車の旅とは異なる新しい旅のスタイルを提案するものです。本稿では、このJR東日本が投入する新夜行特急の詳細と、その背景にある戦略について考察します。
新たな夜行特急「E657系改造車」の全貌
新たに夜行特急に改造されるのは、常磐線特急「ひたち」「ときわ」などで使用されているE657系電車1編成(10両)です。この列車は、1~4人用の個室タイプとして生まれ変わります。
1人および2人用の個室は、シートをフルフラットに切り替え可能な仕様となります。これは、ビジネスパーソンの利用を想定しており、車内でテレワークを行い、疲れた際には横になって休憩することも可能です。一方、4人用の個室は常時フルフラットベッド仕様で、家族や友人同士の旅行に適しています。これらの個室はいずれもグリーン車扱いとなる見込みで、特に2人用個室には上級クラスの「プレミアムグリーン車」も設定される予定です。
E657系を改造したJR東日本の新しい夜行特急の内装イメージ
このプレミアム仕様は、比較的金銭的に余裕のあるシニア層の利用を強く意識しています。ゆったりとした長距離移動を可能にする、新たな旅の選択肢としての役割が期待されています。編成内には乗客がくつろげるラウンジの設置も検討されており、すでに公開されたイメージ動画でその様子が垣間見えます。
車両のインテリアは個室中心の構成となりますが、外装はかつての人気を博したブルートレインや寝台急行を彷彿とさせる、落ち着いた青色で統一される計画です。
シニア層を狙う戦略と運行計画
6月10日に行われた発表会見は、テレビ各局で広く報道され、大きな注目を集めました。会見でJR東日本の喜勢陽一社長は、新たな夜行特急について「寝台列車の思い出を引き継ぎ、新しい旅の提案をする」と述べました。
この新たな夜行特急の運行は、毎日運転される定期列車ではなく、観光需要が高まる特定の時期に限定される方針が示されています。例えば、東京~青森間といった長距離区間での運行が構想されており、その運賃設定についても、新幹線のグリーン車料金にわずかな追加料金で利用できるような価格帯が検討されていることが明らかになりました。
夜行列車復活の背景にある構造変化
かつて多くの路線で運行されていた夜行列車や寝台列車は、新幹線網の拡充や高速バスの普及などにより、その数を大きく減らし、多くの列車が姿を消しました。このため、「一度消えたものは戻らない」「採算が取れない」といった、復活に対する懐疑的な声も少なくありませんでした。
しかし、近年、JR西日本が既存車両を改造した「WEST EXPRESS 銀河」を成功させていることに続き、JR東日本も今回の新たな夜行特急投入に踏み切った形です。両列車に共通するのは、新しい車両を製造するのではなく、既存の電車タイプ車両を改造して活用している点です。これは、設備投資を抑えつつ、柔軟な運用を可能にする戦略と言えます。
JR東日本にとっては、豪華寝台列車「カシオペア」が引退して以降、本格的な夜行列車を再び運行するのは今回が初の取り組みとなります。特に、今回の列車は「WEST EXPRESS 銀河」とも異なり、個室を中心とした構成である点が大きな特徴です。これは、明確なターゲット層(ビジネス、家族、特にシニア層)に絞り込み、それぞれのニーズに応えるための差別化戦略と考えられます。
新たな挑戦が示すもの
JR東日本によるE657系を改造した個室中心の新たな夜行特急計画は、過去の夜行列車とは一線を画す、特定の需要層に向けた高付加価値サービスの提供を目指すものです。既存車両の活用や、ターゲットを絞った個室主体という構成は、収益性と市場のニーズへの適合性を両立させようとする同社の戦略を示唆しています。この新たな挑戦が、今後の日本の鉄道における夜行列車の可能性をどのように広げるか、注目が集まります。
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