1983年、三菱自動車が世に送り出した初代シャリオは、セダンの走行性能とワゴンの居住性を高次元で融合させた、当時としては極めて革新的なパッケージングで注目を集めました。その登場からわずか5か月後、三菱はさらに大胆な戦略として「MRターボ」仕様を市場に投入します。1.8L直列4気筒ターボエンジンを搭載し、軽量なボディと豊かなトルク、そして3速ATの絶妙な組み合わせが実現したこの「MRターボ」は、疑いなく1980年代の自動車界において「時代の最先端」を象徴する存在でした。
初代三菱シャリオMRターボの赤と黒のツートンカラーが際立つ走行風景
「MRターボ」は当時の最先端を行く存在だった
初代三菱シャリオが誕生した1983年は、日本の社会においてさまざまな文化が花開いた年でもあります。芸能界では森尾由美、富田靖子といったアイドルがデビューし、映画界では『キャノンボール2』や『戦場のメリークリスマス』などが公開され、多くの人々の記憶に残る時代でした。自動車業界では、前年に日産がセンターピラーレスボディとリア両側スライドドアを採用し、変則的な3-3-2のシート配列で8人乗りを実現した初代プレーリーを投入しており、初代シャリオはまさにその対抗馬として位置づけられました。
初代ミラージュの兄弟車であるトレディアをベースにしたシャリオは、2-3-2の7人乗りと、2列目がセパレートシートで3列目との回転対座が可能な2-2-2の6人乗りが設定されました。しかし、回転対座モードでの足元スペースの狭さが指摘され、6人乗りは前期型のみで姿を消すという歴史をたどります。しかし、2ボックスながら3列シートという斬新なパッケージングを実現しただけでも賞賛に値するのに、三菱は初代シャリオの発売からわずか5ヶ月後という驚異的なスピードでターボモデルを市場に送り出したのです。
インタークーラーレス1.8L直4SOHCターボG62Bエンジンを搭載したシャリオMRターボのエンジンルーム
発売5ヶ月でターボ投入!その驚きのスペックとは
ボンネットを開けると現れるのは、インタークーラーレスのA175ランサーターボ前期型と同じ1.8L直列4気筒SOHCターボのG62B型「シリウス」エンジンです。自然吸気(NA)版のG37B型エンジンが85psであったのに対し、ターボチャージャーによるドーピングで実に50psもの大幅なパワーアップを果たし、135psを叩き出しました。G62B型のボア×ストロークは80.6φ×88.0mm(1795cc)で、NA版G37Bはストロークを86.0mm(1755cc)に短縮したものです。さらに、G62Bのボア径を85.0φ(1997cc)に拡大したのが2.0L版のG63Bであり、これを4バルブDOHC化したものが後の名機4G63へと発展していくことになります。
燃料供給方式には、当時の過渡期に見られたSPI(シングルポイントインジェクション)を採用。スロットルバルブの上流に1本だけインジェクターが備わり、各シリンダーに混合気を送り込む形式です。MRターボには、三菱のFF車初となる5速MTと、使い勝手の良い3速ATが用意されました。後の初代RVRや2代目シャリオのリゾートランナー系にギャランVR-4やランエボ譲りの4G63ターボが搭載される伝統は、この初代シャリオに始まったと言えるでしょう。
ボディサイドに誇らしく輝く「CHARIOT TURBO」のロゴデカール
スポーティさと実用性を両立した内外装デザイン
取材車両のMRターボは、当時のイメージカラーであった赤/黒のツートンカラーをまとい、ボディサイドには「CHARIOT TURBO」のロゴデカールが誇らしげに入っています。室内に目を移すと、まずステアリングホイール中央のホーンパッドに堂々と「TURBO」の文字が配されているのが印象的です。トレイ状になったダッシュボード上部や助手席前の2段式グローブボックスなど、使い勝手を考慮した設計が随所に見て取れます。メーターパネルは右側にタコメーター(下にブースト計)、左側にスピードメーターが並び、その間に燃料計と水温計が上下に配置されるレイアウトです。
前席はサイドサポートの張り出しが大きく、スルータイプのヘッドレストも採用されるなど、見るからにスポーティな印象を与えます。三菱がMRターボを本格的なスポーティモデルとして仕立て上げようとしていた意図がうかがえます。当初はMRターボ専用だったこのシートですが、後に1984年5月に登場した4WDモデルにも共用されることになります。2列目シートは座面こそ一体型ですが、スライド機構が与えられ、背もたれは50対50分割で独立リクライニングが可能です。3列目シートへのアクセスを容易にするウォークイン機構も採用され、多様なシートアレンジに対応します。
3列目シートは背もたれが短めですが、上下前後方向ともに大人2人がしっかりと座れるスペースが確保されているのは特筆すべき点です。また、左右独立リクライニング機構を持つほか、ダブルフォールディング機能によりラゲッジスペースを拡大することも可能。タイヤハウス上部にはフタ付きのドリンクホルダー&小物入れも用意されており、細やかな配慮がうかがえます。2列目を一番前に出してヘッドレストを抜き、フルリクライニングさせると、2列目から3列目までが完全にフルフラットになる「画期的な」シートアレンジを実現します。当時、このような芸当はハイエースやキャラバンといったワンボックス車の特権であり、セダンに近いボディを持つシャリオがこれを実現したことは、まさに革新的な成果でした。「セダンの運転感覚と、キャブオーバータイプワゴン(つまりワンボックス)の優れた居住性を両立」という三菱の謳い文句に偽りはなかったと言えるでしょう。
2列目から3列目までがフルフラットになる初代シャリオMRターボのシートアレンジ
軽快な走りを支えるターボエンジンと3速ATの絶妙なマッチング
ちなみに、MRターボが登場した1983年7月から1984年5月までの期間、1.8LモデルはNAとターボで異なる型式のエンジンを搭載していたにも関わらず、車両型式がすべてD03Wでした。そのため、車両型式だけではNAかターボかを判断できないという事態が発生。この問題を解消するため、1984年5月以降はターボ(G62B搭載)がD03W、NA(G37B搭載)がD05Wと明確に区別されるようになりました。これは初代シャリオの基礎知識として覚えておくべき点です。
運転席に座ると、視界が大きく開放感抜群であることと、この種の車としては異例なほどサポート性の良いシートとのギャップに驚かされます。ATセレクターレバーをDレンジに入れて発進すると、「3速ATだから走りは…」という先入観はすぐに覆されます。2000rpm付近ですでに十分なトルク感があり、2500rpmからはターボ過給の効果が明確に感じられます。この日、比較試乗として1.8L NAの5速MT車(初代シャリオMX)にも乗りましたが、エンジンのトルク感は全域でNAを上回っているのは間違いありません。もちろん、期待以上に軽快に走るのは、このような優れたトルク特性だけでなく、1150kgという車両重量の軽さも大きく貢献していることは言うまでもないでしょう。
さらに、3速ATのギア比が絶妙に設定されており、80km/h走行時のエンジン回転数は3000rpm弱です。これは計算上、100km/h巡航時でも3500rpm前後となるため、高速道路での長距離ドライブも大きなストレスなくこなせることを示唆しています。このあたりは、トルクに余裕のあるターボエンジンだからこそファイナルギア比を若干高めに設定できたのかもしれません。確証はありませんが、推測の域を出ません。
いずれにしても、初代シャリオMRターボは三菱自動車の意欲作であったと、今さらながら強く感じます。ただし、これは初代RVRにも言えることですが、残念なのは世代を重ねるごとに「普通のクルマ」になってしまったことです。だからこそ、デビューから40年近くが経過した現在でも、初代シャリオMRターボはその独自性と魅力を全く失っておらず、多くの自動車愛好家から再評価されているのです。
80年代のドライブシーンを彷彿とさせる初代三菱シャリオMRターボの走行イメージ
■SPECIFICATIONS
項目 | 内容 |
---|---|
車両型式 | D03W |
全長×全幅×全高 | 4445×1640×1525mm |
ホイールベース | 2445mm |
トレッド(F/R) | 1410/1375mm |
車両重量 | 1150kg |
エンジン型式 | G62B |
エンジン形式 | 直4SOHC+ターボ |
ボア×ストローク | φ80.6×88.0mm |
排気量 | 1795cc |
圧縮比 | 7.5:1 |
最高出力 | 135ps/5800rpm |
最大トルク | 20.0kgm/3500rpm |
トランスミッション | 3速AT |
サスペンション形式(F/R) | ストラット/トレーリングアーム |
ブレーキ(F/R) | ベンチレーテッドディスク/ドラム |
タイヤサイズ(F/R) | 185/70-13 |
参考文献
- 三菱初代シャリオMRターボの魅力をガチで再考察してみた (Yahoo!ニュース, Motor-Fan)