7月3日公示、20日投開票の参院選。今回、数多くの業界団体が候補者を擁立する中、「令和のコメ騒動」の渦中にある農協(JA)が擁立する候補者に注目が集まっている。JAは過去5回の参院選で組織内候補を当選させてきたが、近年その得票数は減少傾向にある。こうした背景のもと、今回JA全中の推薦を受け立候補するのは新顔の東野秀樹氏(53)だ。逆風下の戦いを強いられるJA候補の現状を探る。
農協候補・東野秀樹氏とは
今回、農協を代表して参院選に立候補するのは新顔の東野秀樹氏(53)である。彼は北海道の農家として、もち米や小麦、アスパラガス、切り花などを手掛けてきた実務家だ。地元農協の組合長も務めた経験を持つ。昨春、全国農業協同組合中央会(JA全中)の政治団体により、組織内候補として推薦が正式決定された。自民党公認として全国区となる比例代表区から出馬するため、昨年から全国各地の農協を精力的に回り、10万人以上の農協組合員や関係者と直接会って握手するなど、地道な支持固めを行ってきた。東野氏は、今回で引退するJA全中元専務理事の山田俊男氏(78)の後継候補として位置づけられている。
農協推薦の東野秀樹氏が参院選に向け作成したリーフレット
過去5回の選挙から見る「組織票」の変遷
農協の組織内候補は、過去の参院選で強固な組織票を背景に当選を重ねてきた。山田俊男氏は2007年の初当選時に44万9千票という圧倒的な票を獲得し、当時の自民党比例区において舛添要一氏に次ぐ2位となるなど、農協の組織力の健在ぶりを示した。しかし、その後の選挙では得票数が減少している。2013年には33万8千票に減少し、2019年には21万7千票と、初当選時の半分以下にまで落ち込んだ。2016年の参院選では、山田氏に加え熊本県の農協組合長を務めた藤木真也氏(58)が23万6千票で当選し、農協推薦の参院議員が2人となった時期もあった。しかし、山田氏の得票減は明らかであり、農協候補全体の得票は選挙を重ねるごとに減少傾向にあるのが実情だ。今回、候補者が刷新されるとはいえ、この得票減少傾向に歯止めをかけなければ、農協にとって6回連続の当選に「黄色信号」が灯る事態になりかねない。
「令和のコメ騒動」が参院選に落とす影
今回の参院選において、農協候補にとって大きな逆風となっているのが、現在のコメの高騰、いわゆる「令和のコメ騒動」である。コメ価格の高騰を受け、農林水産省は今年に入ってようやく備蓄米の放出を決定した。しかし、その大半を落札したJAグループの全国農業協同組合連合会(全農)の流通段階で時間がかかり、「農協は価格を下げたくないのではないか」という消費者からの強い批判や不信感を招いた。さらに、JA全中の山野徹会長が今年5月、高騰するコメの価格について「決して高いとは思っていない」と記者会見で発言したことも、高騰に苦しむ消費者や国民から強い反感を買う結果となった。この発言は、生産コスト増で赤字に苦しむ多くの稲作農家の思いを代弁したものとみられるが、国民感情とは乖離しており、SNSなどで厳しい批判が集まった。こうした国民からの風当たりは、農協の組織票にも影響を与える懸念がある。
新人である東野秀樹氏が今回の参院選で直面するのは、過去からの組織票の減少傾向という内部的な課題に加え、コメ価格高騰を巡る消費者からの批判、さらには小泉進次郎農林水産相らが推し進める農業改革の動きといった外部的な逆風である。長年、日本の政治において強固な票田とされてきた農協だが、その影響力と結束力がこれまで以上に試される厳しい選挙戦となりそうだ。
[出典] https://news.yahoo.co.jp/articles/3edde33f04f0aa9848340c5efe601bbe93629d7