トランプ政権とハーバード大学の対立深まる:外国人留学生ビザ問題と法廷闘争

トランプ米政権と米東部の名門、ハーバード大学との間で激しい対立が続いています。政権は大学に対し、外国人留学生の受け入れ資格を停止すると通告。これに反発した大学側は提訴に踏み切り、事態は法廷闘争へと発展しています。この背景には、「リベラルの牙城」とも称されるハーバード大学を標的にすることで、他の大学にも「改革」を迫り、さらには中国共産党など外国の影響力を排除しようとする政権の意図が潜んでいると見られています。一方で、多くの留学生が米国の研究最前線で重要な役割を果たしており、受け入れ停止が米国の将来に悪影響を及ぼすとの懸念も高まっています。

対立の経緯と政権の主張

事の発端は今年3月末に遡ります。トランプ政権は、パレスチナ自治区ガザでの戦闘に関する学生によるイスラエルへの抗議デモを大学側が容認したと非難。「反ユダヤ主義から学生を保護できていない」として、大学への補助金の見直しを示唆しました。その後、5月下旬には、大学側が政権が求める適切な措置を取らずに「反米・親テロ活動を容認した」、さらに「中国共産党との関係について説明責任を果たしていない」などと主張。これらの理由を挙げ、ハーバード大学の外国人留学生受け入れ資格を取り消すとの通告に踏み切ったのです。これに対し、ハーバード大学側は即座に政権の決定は違憲であるとして提訴し、法廷での争いを選びました。

現場の留学生が語る不安

この異様な状況は、キャンパス内の留学生たちの間で強い不安を引き起こしています。6月上旬にハーバード大学のキャンパスで取材を試みたところ、「今取材を受けるのはリスクが高い」「特定されるかもしれない、関わりたくない」と、多くの留学生が口を閉ざしました。意見表明が尊重されるはずの米国の大学において、学生が政権からの「報復」を恐れて発言できないという光景は、現状の異常さを際立たせています。英国からの留学生アルフレッド・ウィリアムソンさん(20)は取材に応じ、「ホワイトハウスとハーバードの間で私たち留学生にできることは何もない。他の大学への転学やビザの切り替え申請の締め切りは過ぎてしまった。完全に無力で、闇の中に置き去りにされているようだ」と、その胸中にある不安を吐露しました。

米マサチューセッツ州のハーバード大学キャンパス。トランプ政権との外国人留学生ビザ問題で注目を集める。米マサチューセッツ州のハーバード大学キャンパス。トランプ政権との外国人留学生ビザ問題で注目を集める。

政権の狙い:「リベラルの牙城」ハーバードへの圧力

今回の対立の背景には、政治的な思惑があると指摘されています。ハーバード大学は伝統的にリベラルな色彩が濃いことで知られ、「リベラルの牙城」とも呼ばれています。ウィリアムソンさんは、「トランプ大統領は、彼の権威主義的な政策に対する抵抗がハーバードのような場所から生まれることを知っている。だからこそ、彼は大学の自主性を奪おうとしているのだ。そこには根深い問題がある」と語っています。政権は、ハーバード大学を狙い撃ちすることで、リベラル寄りとされる他の高等教育機関にも圧力をかけ、教育方針や運営の「改革」を迫る狙いがあると考えられます。さらに、政権が理由として挙げた「中国共産党との関係」への言及からは、大学を通じて米国内への外国、特に中国の影響力排除を強化する意図も見て取れます。

この政権と名門大学との法廷闘争は、単なる大学運営の問題に留まらず、米国の学問の自由、大学の自主性、そして国際的な人材交流のあり方そのものに影響を及ぼす可能性を秘めています。今後の展開が注視されます。