昨年12月に発生したアゼルバイジャン航空機墜落事故を巡り、新たな情報が波紋を広げている。アゼルバイジャンのメディア「ミンバル」は今月1日、ロシア軍防空部隊の指揮官が、自身の部隊が防空ミサイルで同機を誤って撃墜したことを認めたとする文書や音声データを入手したと報じた。この報道は、事故原因に関するこれまでのロシア側の説明と異なる可能性を示唆しており、国際的な注目を集めている。
ミンバルの報道によると、同社が入手したとされる文書は、件の指揮官が尋問に対して自筆で回答したものだという。その回答書には、指揮官がレーダーで「潜在的な目標」を探知したことを上級司令部に報告し、その後に撃墜命令を受け、防空ミサイルを発射したとの説明が記されているとされる。指揮官は当時、濃い霧のため目標を肉眼で確認できなかったとも主張しているとのことだ。また、ミンバルが入手したという音声データには、「ミサイルの破片が墜落機に命中した」という具体的な内容が記録されていると報じられている。
ロシア軍の防空ミサイルシステム
この報道を受け、ロシアのオンラインメディア「アストラ」は2日、当該の指揮官に電話取材を試み、報道の真偽を確認しようとしたと伝えている。アストラによると、指揮官は電話口で報道内容を直接否定も肯定もせず、「私には公式にコメントする権利がない」とだけ答えたという。この沈黙は、ミンバル報道の信憑性を完全に否定しない姿勢とも受け取れる。
今回の墜落事故は昨年12月25日に発生した。アゼルバイジャンの首都バクーからロシア南部グロズヌイへ向かっていた当該機は、ロシア領空を飛行中に緊急事態を宣言し、カザフスタン西部の都市アクタウへ針路を変更した。しかし、アクタウ近郊で墜落し、搭乗していた乗客・乗員67人のうち、38人が死亡するという悲惨な結果となった。
アゼルバイジャン航空機の機体イメージ
事故当時、グロズヌイ周辺ではロシア軍がウクライナ軍のドローン(無人機)に対する積極的な防空作戦を展開していたことが知られている。アゼルバイジャンのイリハム・アリエフ大統領は、事故直後から同機がロシア側による誤射で墜落した可能性に言及し、ロシアに対し責任を認めるよう強く要求していた。これに対し、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はアリエフ大統領に対し、「ロシア領空で悲劇が起きた」として謝罪し、ロシア側に一定の責任があることを認めたものの、その原因が誤射である可能性については言及を避けていた。
アゼルバイジャンとロシア両国の大統領会談イメージ
事故原因を調査しているカザフスタン政府は、今年2月に中間報告書を公表している。この報告書の中で、墜落した機体が「機体外部に由来する多数の金属片によって損傷を受けた」ことが明らかになったと述べられている。この「機体外部に由来する金属片」という表現は、ミサイル破片による損傷の可能性を示唆するものとして注目されていた。
ミンバルによる今回の「指揮官が誤射を認めた」とする報道は、これまでの断片的な情報やアリエフ大統領の主張、カザフスタンの中間報告書の内容を繋ぎ合わせる新たなピースとなり得る。ロシア側の公式な認否はまだないが、この報道が事故原因解明に向けた今後の展開にどう影響するのか、引き続き注視が必要である。
参照元:
- ミンバル (アゼルバイジャンメディア) 報道
- アストラ (ロシアオンラインメディア) 報道
- カザフスタン政府事故調査中間報告書