【総火演】射程1000km超の新型ミサイル初公開 日本の防衛力強化を象徴

陸上自衛隊による「富士総合火力演習」(総火演)が今年も行われた。実弾を用いた迫力ある訓練が展開される中、注目を集めたのは射程が大幅に向上した新型ミサイルなどが初めて公開されたことだ。変化する国際情勢と日本の安全保障環境を背景に、防衛力の強化が喫緊の課題となる中で披露されたこれらの新装備は、我が国の抑止力向上に向けた重要な一歩を示すものといえる。

陸上自衛隊の最新装備が初披露

近年、総火演は一般公開を取りやめ、「部内教育」として実施されている。陸上自衛隊東富士演習場の広大な敷地では、今年も小銃弾からミサイルまで多様な火器が使用され、実戦さながらの訓練が行われた。大地を揺るがす轟音と飛び交う実弾は、自衛隊員の練度向上に不可欠な要素である。今年の総火演では特に、最新鋭の装備品として複数の新兵器が初めて公開され、国内外から大きな関心が寄せられた。

陸上自衛隊の10式戦車が富士総合火力演習で実弾射撃訓練を行う様子陸上自衛隊の10式戦車が富士総合火力演習で実弾射撃訓練を行う様子

緊迫化する安全保障環境に対応

これらの新型ミサイルが開発、公開された背景には、厳しさを増す日本の安全保障環境がある。ロシアによるウクライナ侵攻以降、世界の各地で紛争が続く中、東アジアにおける地政学的リスクも高まっている。特に、台湾を巡る情勢の緊迫化は、我が国にとって直接的な脅威となりうる。北方領土や竹島の不法占拠、尖閣諸島周辺での中国による活動活発化といった現状に加え、台湾有事が発生した場合、南西諸島を含む日本の島嶼部が攻撃を受ける、あるいは実効支配が及ぶ可能性が指摘されている。このような事態への対処能力を強化するため、敵の脅威圏外から対処できる長距離攻撃能力の保有が求められていた。

12式地対艦誘導弾(能力向上型)の性能と意義

今回注目された新装備の一つが、12式地対艦誘導弾の能力向上型である。従来の12式誘導弾の射程が約200kmとされるのに対し、能力向上型は1000kmを超える射程を持つとされ、将来的には1500km級まで延伸を目指しているという。これは、米国の巡航ミサイル「トマホーク」に匹敵する長距離攻撃能力となる。さらに、誘導弾本体はステルス性を持ち、高速で飛翔するため、敵による迎撃が困難であり、命中精度の向上も図られている。外見上の特徴として、従来型が6本のキャニスターを持つ発射機を使用するのに対し、能力向上型は誘導弾の大型化に伴い4本となっている。この12式地対艦誘導弾能力向上型などの配備により、我が国は「スタンド・オフ・ミサイル」と呼ばれる長距離攻撃能力を獲得することになる。これは、敵の艦艇や上陸部隊、あるいは射程圏外にある拠点を、自国の安全を確保しつつ攻撃できる能力を意味する。南西諸島などの島嶼部防衛において、敵が接近する前に阻止または排除する上で極めて重要な役割を果たすことが期待されている。スタンド・オフ能力の保有は、専守防衛の考え方の範囲内で、現代の安全保障環境に対応するための防衛力強化の一環と位置付けられている。

今年の富士総合火力演習で披露された新型ミサイルなどは、変化する国際情勢、特に東アジアの緊張に対応するための日本の防衛力強化の取り組みを明確に示すものである。スタンド・オフ防衛能力の獲得は、南西地域の防衛をはじめとする我が国の抑止力・対処力向上に貢献することが期待されており、今後の配備と運用が注目される。