海水浴場でのタトゥー規制、どこまで許容される?銭湯・温泉との違い、弁護士の見解は

今年も梅雨が明け、本格的な夏の到来とともに各地で海開きが行われ、海水浴シーズンを迎えました。しかし、近年、一部の自治体が管理する海水浴場では、飲酒やたき火、BBQといった一般的な禁止事項に加え、タトゥー(入れ墨)の露出に対する規制を設ける動きが広がっています。このタトゥー規制はどこまで法的に許容されるのか、また銭湯や温泉での状況とはどう違うのか、弁護士の見解を交えて解説します。

海水浴場でくつろぐ人々。一部の海水浴場では、タトゥーを含む様々な行為が規制されている現状を表す。海水浴場でくつろぐ人々。一部の海水浴場では、タトゥーを含む様々な行為が規制されている現状を表す。

逗子市など、条例やルールでタトゥーの露出を制限

神奈川県逗子市では、「安全で快適な逗子海水浴場の確保に関する条例」第5条2項3号において、「入れ墨その他これに類する外観を有するものを公然と公衆の目に触れさせることによって、他の者に不安を覚えさせ、他の者を畏怖(いふ)させ、他の者を困惑させ、又は他の者に嫌悪を覚えさせることにより、当該他の者の逗子海岸の利用を妨げること」を禁止しています。これは、単にタトゥーを露出すること自体を禁じるのではなく、その露出が他者に不安や畏怖といった感情を抱かせ、利用を妨げる場合に規制するという限定的な定め方です。同市の「逗子海水浴場事業者・利用者ルール」でも、「逗子海岸での他者を畏怖させる入れ墨・タトゥーの露出を禁止とする」と明記されており、同様の意図がうかがえます。

また、神奈川県内では逗子市以外にも、鎌倉市や藤沢市などで、海水浴場でのタトゥー・入れ墨に関する同様の規制が条例や独自のルールとして導入されています。これらの規制は、海水浴場を訪れる様々な利用者が快適かつ安心して過ごせる環境を維持することを目的としています。

銭湯や温泉などの入浴施設では異なる対応

海水浴場と同様に、タトゥーや入れ墨の有無によって利用が制限される場所としてよく連想されるのが、銭湯や温泉といった入浴施設です。しかし、これらの施設における対応は、海水浴場とは様相が異なります。

公衆浴場法に基づく銭湯については、政府は2017年の答弁書で、入れ墨やタトゥーを理由とした入浴拒否について、特定の衛生上の問題などがない限りは「困難」との見解を示しました。これは、公衆浴場法が直接的に入れ墨・タトゥーのある人の入浴を一律に禁止する規定を設けていないためです。

一方、温泉旅館やスーパー銭湯、宿泊施設の浴場などは、公衆浴場法の直接的な適用範囲外となるケースが多いですが、観光庁は2018年、増加する外国人観光客を念頭に、各業界団体に対し「入れ墨をしていることのみをもって、入浴を拒否することは適切ではございません」とする通知を出しています。これは、文化的な背景などからタトゥーを持つ人々に対する理解を求め、可能な限り入浴を受け入れるよう促すものです。

条例による露出規制の妥当性と「表現の自由」

では、海水浴場におけるタトゥーの露出規制、特に「他者を畏怖させる」といった効果に着目した条例やルールは、法的に見てどの程度妥当なのでしょうか。また、個人の「表現の自由」や「自己決定権」といった基本的人権との関係はどうなるのでしょうか。行政による規制や自由権の問題に詳しい杉山大介弁護士は、逗子市の条例を例に解説します。

杉山弁護士は、逗子市の条例が、飲酒やたき火といった行為そのものを禁止しているのに対し、入れ墨については「不安や畏怖といった効果まで満たされて初めて違反になる」と限定を加えている点を指摘します。「『どれもダメ』ではなく、『他者を畏怖させるような入れ墨はダメ』という作り」であり、これは利用者ルールにおける「他者を畏怖させる入れ墨タトゥー」という限定文言にも表れていると分析します。

こうした条例やルールが、個人のタトゥーを入れることやそれを公然と露出するといった「表現の自由」や「自己決定権」といった自由を制約する側面があることは認められます。しかし、杉山弁護士によれば、自由権の制約自体は社会生活のあらゆる場面に存在し、それが「過剰である、目的との関係でバランスを欠く」といった「不当性」が伴って初めて、人権侵害の問題として深く議論されるべき課題となると述べます。つまり、海水浴場という公共性の高い場所で、他の利用者の安全や快適性を確保するために設けられる規制が、その目的とのバランスにおいて妥当な範囲内であれば、一律に人権侵害とは言えないという見解が示唆されます。

まとめ

海水浴場でのタトゥー露出規制は、一部の自治体で導入され、他者への畏怖や不安といった効果を基準とするなど、その内容も様々です。これは、利用者の快適性を保つための試みとして行われていますが、個人の表現の自由との兼ね合いという側面も持ち合わせています。一方で、銭湯や温泉などの入浴施設では、公衆浴場法や政府・観光庁の見解に基づき、原則としてタトゥーのみを理由とした入浴拒否は適切ではないとされており、海水浴場とは異なる対応が一般的です。これらの規制や対応は、公共空間における様々な価値観の共存を模索する中で生じる課題であり、今後の社会的な議論や理解の進展が注目されます。


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