ドナルド・トランプ米大統領は3日、アイオワ州デモインで行われた減税などを盛り込んだ歳出法案「ワン・ビッグ・ビューティフル・ビル」の成立を祝う集会で演説しました。この中でトランプ氏は、「立派な銀行からであろうと、シャイロックや悪党からであろうと」お金を借りることに言及。「シャイロック」という言葉を使ったことで、直後に反ユダヤ主義的であるとの批判が巻き起こっています。トランプ氏自身は、その言葉がユダヤ人を侮辱するものだとは知らなかったと釈明しています。
アイオワ州での集会後、階段を降りるドナルド・トランプ米大統領(2025年7月3日撮影)
「シャイロック」とは? 物議を醸す言葉の背景
「シャイロック」という言葉は、英劇作家ウィリアム・シェークスピアの有名な戯曲「ベニスの商人」に登場する登場人物に由来します。この物語には、借金を返済できなかった商人から「自分の身体の肉1ポンド」という非情な取り立てを行おうとする、ユダヤ人の金貸しシャイロックが登場します。
元々は高利貸しを指す言葉として使われることがありますが、ユダヤ人と強欲さのステレオタイプと結びつけられ、長年にわたりユダヤ人に対する侮辱的な表現と見なされてきました。
過去の事例とユダヤ人権利保護団体の反応
過去にも、米国の政治家が「シャイロック」という言葉を使用して批判された例があります。ジョー・バイデン前大統領(当時副大統領)も2014年に搾取的な高利貸し業者を指してこの言葉を用い、後に「言葉の選択がまずかった」として謝罪しています。
当時ユダヤ人権利保護団体「名誉毀損防止同盟(ADL)」の代表だったエーブラハム・フォックスマン氏は、このような発言が「ユダヤ人に対するステレオタイプがいかに深く社会に根付いているか」を改めて示すものだと述べていました。
トランプ氏の釈明:「反ユダヤ主義的な意味合いは知らなかった」
物議を醸した発言について、トランプ氏は首都ワシントンに戻り、大統領専用機エアフォースワンを降りた際に記者団から問われました。「シャイロック」という言葉が反ユダヤ主義的と見なされているとは「聞いたことがない」と回答。
「そういう意味では聞いたことがない。『シャイロック』の意味は、高い利息を取って金を貸す人のことだ。あなたは違う見方をしている。私は聞いたことがない」と繰り返し述べ、意図的にユダヤ人を侮辱したわけではないとの立場を強調しました。
民主党議員からの強い批判
ニューヨーク州選出のダニエル・ゴールドマン下院議員(民主党)は、トランプ氏の発言に対し、ソーシャルメディア(旧ツイッター、現X)上で強い批判を展開しました。ゴールドマン議員は、この発言を「露骨で卑劣な反ユダヤ主義」と呼び、「トランプ氏は自分が何をしているのかよく分かっている」と断定しました。
さらに同議員は、「真に反ユダヤ主義に反対する人は誰でも、どこで起ころうと、それがどのような立場からであろうと、私のようにそれを非難するべきだ」と付け加え、トランプ氏の発言が明確な反ユダヤ主義に基づいていると非難しました。
反ユダヤ主義対策における過去と現在の姿勢
昨年の米大統領選期間中、トランプ氏は米国における反ユダヤ主義の波と闘うことを主要な公約の一つとして掲げていました。
しかし、彼の政権は発足以来、パレスチナ自治区ガザ地区での紛争に対する抗議活動が行われた主要大学を厳しく批判してきました。これらの大学が反ユダヤ主義や、イスラム組織ハマスへの支援を許していると非難する一方で、今回の自身の発言が反ユダヤ主義的であるとの批判に対しては「知らなかった」と主張しており、彼の反ユダヤ主義に対する姿勢について改めて議論を呼んでいます。
まとめ:意図か、無知か、そして終わらない議論
ドナルド・トランプ氏による「シャイロック」という言葉の使用は、その言葉が持つ歴史的な反ユダヤ主義的含意から、直ちに批判の対象となりました。トランプ氏はその意味を知らなかったと釈明していますが、民主党議員らは意図的な反ユダヤ主義であると強く非難しています。
この出来事は、公の場での言葉の選択がいかに重要であるか、そして米国社会における反ユダヤ主義やステレオタイプに関する議論が依然として続いていることを浮き彫りにしています。特に、ユダヤ人コミュニティへの影響を考慮せずになされた発言が、いかに深い傷となりうるかを改めて示唆しています。
参考文献
AFPBB News – トランプ氏、「シャイロック」発言巡り反ユダヤ主義批判に反論
Yahoo!ニュース – トランプ氏、「シャイロック」発言巡り反ユヤ主義批判に反論