2019年の香港民主化デモ以降、自由の喪失を恐れた約50万人の香港住民が海外へ移住しました。一方で、今、中国本土から香港への移住者が急増し、「新香港人」と呼ばれています。この劇的な人の流れの変化と、中国政府が推進する香港を中心とした巨大経済圏構想による経済構造の変化により、香港と中国の関係は現在、大きな変革期を迎えています。急速に進む「中国化する香港」に対して、既存の香港住民は何を想うのでしょうか。その現場を取材しました。
民主化運動とその後の統制強化
2019年、香港では市民が民主化と自治の維持を求め大規模なデモを行いました。この動きに対し、警察は催涙ガスなどで鎮圧を図り、約半年間にわたり混乱が続きました。翌2020年には、中国政府が主導する形で「香港国家安全維持法」が施行されました。この法律は、反政府的な言動を厳しく取り締まるもので、その後の5年間で民主化デモの関係者ら約300人が逮捕されるなど、市民の自由な言論や行動に対する統制が徹底的に強化されました。
自由への懸念と約50万人の流出
国家安全維持法の施行後、多くの香港住民はかつての自由が失われることへの強い懸念を抱きました。その結果、ITや金融などの専門職を中心に、約50万人もの人々がイギリスやカナダなど海外へ逃れる事態となりました。香港で移民手続きをサポートしてきた羅立光社長は、「私の友人の会社では社員200人のうち、50人が海外へ移住してしまいました」と、人材流出の深刻さを語っています。この大量の人口流出は、香港社会、特に高度な専門人材の層に大きな影響を与えています。
人材流入政策と「新香港人」の台頭
危機感を強めた香港政府は、世界中から人材を呼び込むためのビザ緩和政策を開始しました。この政策により、その後の2年間で約7万人の外国人が香港にやってきましたが、その大多数は中国本土からの人々でした。彼らはしばしば「新香港人」と呼ばれています。3年前に北京から香港に移住し、IT企業に勤務するアレンさん(33)は、香港の労働環境について、「香港は働く人にとっての天国だという言葉があります。税金が安い上に給料が高いですから」と語り、本土からの移住の動機の一つを説明しています。
香港と中国本土を結ぶグレーターベイエリア経済圏構想における橋や鉄道の建設風景
巨大経済圏構想が促す変化と香港の未来
この「新香港人」の増加は、単なる人口移動に留まらず、中国政府が推進する「グレーターベイエリア(大湾区)」構想とも連動しています。これは、香港、マカオ、そして広東省の主要都市を統合し、ニューヨークや東京に匹敵する巨大な経済圏を創出する試みです。高速鉄道や橋などのインフラ整備が進み、人やモノ、資本の移動が活発化しています。この経済的な結びつきの強化は、中国本土からの人材流入をさらに促し、香港の社会構造や文化に変化をもたらしています。人口構成の変化と経済的な統合が進む中で、香港はかつての姿から大きく変貌しつつあります。
結論:変化の渦中にある香港
香港は今、民主化運動後の統制強化、それに伴う既存住民の大量流出、そして中国本土からの「新香港人」の急増という、前例のない人口変動を経験しています。これは、巨大経済圏構想という経済的要因とも絡み合い、香港と中国本土の関係性を根本から変えつつあります。急速な「中国化」が進む中で、多様な背景を持つ人々が混在する香港社会は、そのアイデンティティと未来の方向性を巡って新たな課題に直面しています。この変革期を迎え、「中国化する香港」を香港の人々がどのように受け止めているのか、今後の動向が注目されます。