交通事故で車全損、保険金が新車購入に足りない現実:時価の落とし穴と対策

「交通事故で相手の過失が100%なら、車の買い替え費用は全額保険でまかなえる」──多くの方がそう考えているかもしれません。しかし実際には、保険金は車の「購入価格」ではなく「時価」に基づいて支払われるため、新車への買い替え費用には遠く及ばないケースが少なくありません。この記事では、筆者自身の痛ましい経験を基に、交通事故における保険金の「時価」の原則と、万が一に備えるための対策について解説します。

筆者の経験:対向車の逆走による「10:0」事故

先日、橋の上を走行中、対向車が急にセンターラインを越え、こちらに向かって逆走してきました。すぐにブレーキを踏み停車しましたが、そのまま正面衝突され、筆者の車は完全に大破、全損となりました。警察に提出したドライブレコーダーの映像もあり、保険会社による検証の結果、過失割合は「10:0」となり、相手方の責任が100%認められました。この時点で、「これで新しい車に買い替えられる」と安堵したのも束の間でした。車両保険の仕組み上、新車価格の満額が補償されない可能性は知識として知っていましたが、実際に提示された保険金額は約120万円。同じ車種を新車で購入するには300万円近くかかるため、その差額約180万円は自己負担となる見込みです。過失が一切ないにも関わらず、金銭的な負担が発生するという「時価」の壁を痛感しました。

交通事故で損傷した自動車と保険手続きのイメージ交通事故で損傷した自動車と保険手続きのイメージ

自動車保険における「時価」とは何か

なぜ「10:0」の交通事故でも、車の購入価格が全額補償されないのでしょうか。それは、損害保険において、物損事故の賠償は事故に遭った時点でのその物の「時価」に基づいて行われるためです。自動車保険における「時価額」とは、事故が発生した時点での、その車と同程度の車種、年式、走行距離、グレード、損耗状態などの条件を満たす中古車を市場で再取得するために必要とされる金額を指します。新車価格から経過年数による価値の減少(減価償却)を考慮して算出されるため、古い車ほど時価額は低くなります。筆者のケースでは、所有していた車が初年度登録から8年経過していたため、時価額が約120万円と評価されたのです。この時価額はあくまで「同程度の車」を手に入れるための金額であり、「全く新しい同じ車」を購入するための金額ではない点に注意が必要です。

時価額と新車購入費用の大きな隔たり

筆者の例のように、車両が全損した場合に保険で支払われる時価額と、同じ車種を新車で買い替えるために必要な費用との間には、大きな隔たりが生じることがしばしばあります。特に、初年度登録から数年が経過した車両の場合、市場での評価額である時価額は購入価格から大きく目減りしていることがほとんどです。たとえ過失ゼロの被害事故であっても、この時価額しか補償されないとなると、新車購入には多額の自己資金が必要となってしまいます。これは、多くのドライバーが見落としがちな「時価」の落とし穴と言えます。

万が一の事故に備えるための対策

このような「時価」と新車購入費用のギャップによる金銭的負担を避けるため、万が一の交通事故に備えてできる対策がいくつかあります。

まず、ご自身の自動車保険に付帯されている車両保険の補償内容、特に車両の「時価額」がどのように算出されるか、そして全損時の支払い限度額を理解しておくことが重要です。次に、新車購入から日が浅い車両であれば、「新価・評価額協定保険特約(新車特約)」の付帯を検討しましょう。この特約は、事故で全損または修理費用が新車価格の一定割合以上になった場合、新車再取得費用や修理費用を時価額に関わらず新車価格相当額を上限に補償するものです。ただし、加入できる期間や条件に制限があります。また、「車両全損修理費特約」は、全損時には時価額に一定額を上乗せして支払うことで、修理や再取得の費用をサポートするものです。これらの特約の活用や、定期的な保険内容の見直しが、予期せぬ事故に遭遇した際の経済的ダメージを軽減する鍵となります。

交通事故はいつ、どんな状況で起こるか予測できません。相手方の過失による「もらい事故」であっても、ご自身の保険に関する知識が不足していると、思いもよらない自己負担が発生する可能性があります。ご加入中の保険内容を確認し、必要に応じて補償の見直しを検討しておくことをお勧めします。

https://news.yahoo.co.jp/articles/594c6eea0b64039cdfda780da5a89adefc46dba2