観光過剰(オーバーツーリズム)が深刻化し、市民生活にも影響を及ぼしている京都市において、公共交通機関である市バスの混雑は長年の課題となっています。この状況を改善するため、京都市は市民と観光客の市バス運賃に差を設ける「市民優先価格」制度の導入を目指しており、これが実現すれば全国初の画期的な取り組みとなります。
市民優先価格制度の核心は、市民の市バス運賃を、観光客を含む市民以外の利用者よりも割安に設定することです。この政策の主な狙いは、単に市バスの混雑を緩和するだけにとどまらず、観光が市民の生活の豊かさにつながるという実感を醸成することにあります。地域住民が観光の恩恵を感じ、より快適な日常生活を送れるよう、持続可能な観光モデルを構築する重要な一歩と位置づけられています。
京都市下京区を走る市バスと多くの観光客。オーバーツーリズム対策として市民優先価格導入が検討されている
松井市長、2027年度中の実現を表明
2024年2月の市長選で市民優先価格の導入を公約に掲げた松井孝治市長は、就任1年となる2025年2月の市議会代表質疑において、この制度を2027年度中に実現する目標を表明しました。この目標達成に向け、京都市交通局は今年4月、企画調査課内に専門部署として「市民優先価格係長」を新設。現在、具体的な制度設計と導入に向けた準備が精力的に進められています。松井市長は今月6日、進捗状況について「運用における実務的な課題を一つひとつ着実にクリアしていく必要があり、それらが同時並行で進められている状況だ」と説明し、複雑な調整作業が行われていることを示唆しました。
制度導入に向けた三つの主要課題と進捗
市民優先価格の導入には、当初から三つの大きな壁が指摘されていました。それは、市民と観光客をどのように識別するかという「識別方法」、既存の法制度との整合性に関わる「法制度上の課題」、そして民間バス事業者との協力体制をどう築くかという「民間バス事業者との関係」です。
しかし、京都市交通局の北村信幸局長は、国土交通省やデジタル庁との協議を重ねる中で、これらの課題に対する見通しが明るくなってきたと語っています。「数年前までは実現困難と見られていたが、オーバーツーリズム対策に資する取り組みであれば、という理解を得られ、道筋が見えてきた」と手応えを明かしました。
識別方法については、ICカードやクレジットカードとマイナンバーを連携させる方式が具体的な検討対象となっています。また、「特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをする」ことを禁じる道路運送法の解釈についても、国との協議が順調に進展しているとのことです。
しかしながら、全ての問題が解決したわけではありません。市民優先価格制度を市バスに導入した場合、京都市内を運行する民間バス事業者の収益に影響が及ぶ可能性があります。運賃体系の統一化や、市が事業者の損失を補填する方策など、民間事業者との調整は引き続き重要な検討課題です。さらに、北村交通局長は「マイナンバーカードを保有していない市民や、手続き方法が不明な人々への適切なフォローアップも不可欠だ」と述べ、市民がスムーズに制度を利用できるための支援体制構築の必要性を強調しています。
結論
京都市が進める市バスの「市民優先価格」導入は、オーバーツーリズムという喫緊の課題に対し、市民の生活の質向上と持続可能な観光の両立を目指す野心的な取り組みです。2027年度中の実現に向け、識別技術、法的解釈、民間事業者との連携といった多岐にわたる複雑な課題解決が進められています。この全国初の試みが、他の観光都市におけるオーバーツーリズム対策のモデルケースとなり、地域住民と観光客が共存できる未来を築くための重要な一歩となるか、今後の進捗が注目されます。
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