中国の少子化が加速:高騰する教育費と育児コストが政府の対策を阻む

日本以上に深刻な少子化が加速している中国では、習近平政権が育児手当の拡充など様々な対策を打ち出しています。しかし、その効果に対しては、高騰し続ける教育費や育児コストを背景に、現地からは疑問の声が上がっています。本記事では、中国の少子化問題の現状と、政府が講じる対策、そしてその対策が直面する課題について深く掘り下げます。

中国政府が打ち出す少子化対策とその実態

中国の出生率は1.01と日本の水準を下回り、急速な人口減少に直面しています。これに対し、中国政府は少子化を食い止めるべく、複数の対策を導入しています。主要な施策は以下の通りです。

  • 育児手当の拡充: これまで第2子と第3子が対象だった育児手当を、新たに第1子にも拡大しました。子ども1人あたり満3歳まで、年間約7万4000円(ひと月あたり約6000円)が支給されます。国家衛生健康委員会の郭副主任は、これを「建国以来、初の大規模で包括的な民生保障の現金補助」と評価し、社会全体が豊かになる前に高齢化が進む「未富先老」の回避を目指す習近平政権の強い意志を示しています。
  • 幼稚園費用の減免: 来月からは、公立幼稚園に在籍する子どもの小学校入学前の1年間について、費用が無償化されます。これにより、家庭の経済的負担軽減を図ります。
  • 出産・不妊治療への助成: 「無痛分娩」や「不妊治療」への助成も進められ、出産を希望する家庭への支援を強化しています。

高騰する育児コストが招く国民の不満

政府によるこれらの少子化対策にもかかわらず、現場からは十分ではないという不満の声が上がっています。北京で1人の子どもを育てる何さん(30)は、「オムツ代や粉ミルク代などで毎月4万円以上かかる。もっと支援が必要だ」と訴えています。

中国の人口問題を研究する梁氏も、現在の支援額では不十分であると指摘しています。梁氏は、第1子には16歳または18歳まで毎月約2万円、第2子誕生で合計6万円、第3子誕生で合計12万円といった段階的な支援システムの導入を提唱しています。さらに、所得税や社会保険料の減免といった包括的な経済的支援の必要性も主張しており、育児に対する経済的重圧の深刻さが浮き彫りになっています。

少子化の根源:教育費と養育費の重い負担

中国で少子化が深刻化する最大の背景には、育児費用の高騰があります。この経済的負担が、多くの出産適齢層が子どもを持つことに躊躇する主要な要因となっています。

昨年8月に四川省綿陽市が実施した出産適齢層へのアンケート調査では、「出産費用や育児費用が高く、経済的負担が大きい」と回答した人が86.4%に達し、これが少子化に直結する課題であることが明確に示されています。

さらに、中国のシンクタンクが昨年2月に発表した「中国育児コスト報告書」によると、中国における1世帯あたりの子どもの養育コスト(17歳まで)は平均で約1100万円に上ります。都市部に限定すると、上海では約2100万円、北京では約1900万円と、その額はさらに高騰します。このデータは、特に都市部において、子育てが極めて高額な投資となっている現状を如実に物語っています。

中国で少子化と高騰する教育費の問題に直面する家庭。習近平政権の対策が十分ではない現状を象徴する一枚。中国で少子化と高騰する教育費の問題に直面する家庭。習近平政権の対策が十分ではない現状を象徴する一枚。

2021年に習近平政権が掲げた「双減(そうげん)」政策も、教育費高騰問題に複雑な影響を与えています。「宿題の軽減」と「校外教育の負担軽減」を目指し、過熱する受験競争を緩和するために学習塾を規制しました。しかし、この政策は予期せぬ結果を招き、闇市場で家庭教師を雇う需要が高まり、かえって教育コストが増加するという皮肉な状況を生み出してしまいました。

結論:複合的な課題に直面する中国の少子化対策

中国政府は少子化の危機に対し、育児手当の拡充や教育費の減免、出産支援など様々な対策を講じていますが、高騰し続ける育児・教育コストという根深い問題が、これらの施策の効果を相殺しています。国民の不満や専門家の提言が示すように、現状の支援だけでは、出産や子育てに対する経済的負担を軽減し、出生率の回復に繋がるほどのインパクトを生み出すには至っていません。

今後、中国がこの深刻な少子化の波を乗り越えるためには、より包括的かつ実効性のある経済的支援策と、教育システムの根本的な見直しが不可欠となるでしょう。


参考文献: