減税か給付かで揺れた参議院選挙の結果は、給付を掲げた自民党の惨敗に終わりました。しかし、それでも国が減税に向けて大きく動いているようには見えません。そもそも、なぜ政府、特に財務省は消費税に固執するのでしょうか。堀江貴文氏が自身のYouTubeチャンネルで「安定財源だからです。要は政治家にとっては、確実に入ってくるお金なんで」と解答したことが話題を呼びましたが、その「安定性」の実態とは一体何なのでしょうか。経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏の分析に基づき、消費税の隠された側面を詳しく解説します。
消費税と経済の関連性を示すイメージ。税金や財政の概念を連想させる
財務省が語る「安定」の実態:国民の苦境時の「搾取」
財務省は「もっと知りたい税のこと」(2024年6月)において、社会保障制度を次世代に引き継ぐためには安定的な財源の確保が不可欠であり、消費税がその中心的役割を担うと説明しています。受益する社会保障の負担を世代全体で分かち合うため、幅広く薄く徴収される仕組みが必要だと強調し、消費税を「景気変動に左右されにくい安定財源」と位置づけているのです。また、現役世代への過度な負担集中を避けられるという理屈も掲げられています。しかし、この理屈は偽りであると言わざるを得ません。消費税の実態は、不況時でさえ国民生活に不可欠な消費活動を通じて容赦なく徴収される、ある意味「冷酷な制度」です。財務省が語る税収の安定性とは、国民の懐具合が厳しい局面でも確実に資金を吸い上げる仕組みの言い換えに過ぎません。
景気変動に左右されない消費税収の残酷な推移
実際の税収推移は、消費税の非情な安定性を鮮明に映し出しています。2012年度、リーマンショック後の経済低迷期において、消費税収は10.4兆円を維持しました。この時期、法人税収は9.8兆円まで落ち込み、所得税収も14兆円に低迷していたのと対照的です。さらに、2020年度には新型コロナウイルス感染症の蔓延により企業活動や雇用が深刻な打撃を受けました。にもかかわらず、消費税収は約21兆円を記録し、過去最高水準を保ち続けました。同年度の法人税収が約12兆円、所得税収が約19兆円にまで減少したことと比べると、その安定性は際立っています。2022年度に経済回復が進むと、消費税収は23.1兆円、所得税収22.5兆円、法人税収14.9兆円となりましたが、景気循環で大きく振れる他税目と比較して、消費税だけが一貫して確保される構図が浮かび上がります。1997年の消費税率引き上げ直後も、深刻な不況下で税収は確実に徴収され、家計と企業活動に壊滅的な悪影響を及ぼした一方で、国庫だけは着実に潤いました。財務省が称賛する「安定」とは、国民にとっては苦境時でも「搾取」が止まらない仕組みの別称に他ならないのです。
結論
消費税が国の財政にとって「安定財源」であるという見方は、確かに税収データからは裏付けられます。景気の変動に関わらず、国民の消費活動から確実に徴収されるため、政府にとっては予測しやすく、社会保障などの財源として計算しやすいという利点があります。しかし、その安定性は、国民が経済的に困難な状況に直面している時でさえ、生活必需品の購入を通じて負担を強いられるという現実の上に成り立っています。財務省が謳う安定と、国民が日々感じる経済的重圧の間には、深い溝が存在すると言えるでしょう。