ナント北斎展が示す欧州での人気拡大:時代を超えた魅力の理由

フランス西部ナントの歴史博物館で6月28日、江戸時代の偉大な浮世絵師、葛飾北斎(1760~1849年)の大規模な展覧会が開幕しました。これは2014年のパリ、2017年のロンドンに続く欧州での重要な北斎展であり、前売り券が既に1カ月先まで完売するなど、その人気の高さは驚くべきものです。なぜ、葛飾北斎はこれほどまでに欧州の人々の心をとらえ、魅了し続けているのでしょうか。

北斎館所蔵の傑作が集結、水と波の表現に焦点

ナントで開催されている「北斎展」では、長野県小布施町にある北斎館が所蔵する約160点以上の浮世絵や肉筆画が展示されており、その多くが今回初めて海外で公開されました。本展は「水と波」を主要なテーマとし、特に北斎が80代で制作した祭屋台天井絵「男浪(おなみ)」をはじめ、川や滝、波をダイナミックに描いた晩年の傑作に焦点を当てています。世界的に有名な「冨嶽三十六景」シリーズの中でも特に名高い「神奈川沖浪裏」も、「Big Wave」として広く知られ、注目を集めています。

ナント歴史博物館のベルトラン・ギエ館長は、北斎の名前を知らなくとも「大浪(神奈川沖浪裏)」のイメージは多くの人の記憶に深く刻まれていることが、この展覧会への強い関心につながっていると指摘します。ナントはパリから高速鉄道で約2時間という距離ですが、6月27日に行われた内覧会には多くの全国紙やテレビ記者が詰めかけ、その注目度の高さを証明しました。

ナント北斎展の開幕式で挨拶する北斎館長と歴史博物館長ナント北斎展の開幕式で挨拶する北斎館長と歴史博物館長

印象派への影響から現代日本の象徴へ

江戸時代の浮世絵が19世紀のフランス印象派の巨匠たち、クロード・モネやフィンセント・ファン・ゴッホに多大な影響を与えたことはよく知られています。しかし、現在の欧州、特にフランスにおける北斎の人気は、同時代の歌川広重や喜多川歌麿といった他の著名な絵師と比較しても際立っており、葛飾北斎は今や「日本を代表する画家」としての地位を確立したと言えるでしょう。

この北斎ブーム再燃の契機となったのは、2014年にパリのグランパレ美術館で開催された北斎展です。この展覧会では約700点の作品が公開され、3カ月で35万人以上を動員しました。ギエ館長はこの時の展覧会を「フランスにおける北斎の再発見」と位置づけています。

現代漫画・アニメに通じる表現と生命への執着

現在のフランスの観客は、北斎の作品の中に「現代の日本人」の精神性や文化の源流を見出しているようです。

パリの文化記者クリスティヌ・ムイさんは、特に北斎の描いた妖怪絵に強い印象を受けたと語ります。「滑稽でありながら非常に繊細。これが現在の日本の漫画やアニメ、ポップアートにつながっていると感じました」。北斎の自由で奔放な発想や表現が、現代の日本のクリエイティブな表現形式と共鳴しているという視点です。

さらに、北斎の作品から溢れ出る生命への強い執着心と躍動感も、欧州の人々に強いインパクトを与えています。雑誌記者のステファン・ジャルノさんは、「北斎の最大の魅力はその躍動感にある」と述べ、「他の浮世絵や中国水墨画に見られる平面的な表現とは異なり、自然や人物が画面から飛び出してくるような生命力がある」と感じているそうです。ジャルノさんが特に心惹かれたのは、北斎が数え年90歳で亡くなる直前に描いたとされる「富士越龍」です。天に向かって昇る黒龍と、対照的に描かれた白い富士山を見て、「『大浪』のような力強さとはまた違う、老境に達した画家の心境が伝わってくるようだった」と語りました。

ナントの北斎展で展示されている葛飾北斎晩年の傑作「男浪図」ナントの北斎展で展示されている葛飾北斎晩年の傑作「男浪図」

結論:普遍的なテーマと革新的な表現が鍵

ナントでの北斎展の成功は、葛飾北斎の芸術が単なる歴史的な遺産ではなく、現代においても世界中の人々を魅了し続ける普遍的な力を持っていることを改めて示しています。その人気の理由は、歴史的な文脈における影響力に加え、現代日本の文化(漫画やアニメ)に通じる自由な発想、そして何よりも作品全体に漲る生命力、躍動感、そして革新的な表現にあると言えるでしょう。ナント展は、北斎の尽きることない創造性と、それが国境や時代を超えて人々の心に響く普遍的なテーマを描いていることの証です。

Source: https://news.yahoo.co.jp/articles/af8f462672eb2fcc2beefbb4530e6b77a2fb765e