石破首相NATO首脳会議見送り:自衛隊幹部の失望と日本の安全保障の課題

「中東やウクライナに欧米の関心が集中している時だからこそ、日本が行って増大する中国の脅威、そして核の脅威を訴え、対抗手段を議論する必要があった」――。6月下旬、オランダ・ハーグで開かれた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議への参加を直前になって見送った石破茂首相に対し、陸海空の自衛隊幹部は愕然とした表情を見せ、失望の色を濃くした。それは怒りとも呼べる感情だったという。

自衛隊指揮官幹部会同で日本の安全保障について演説する石破茂首相自衛隊指揮官幹部会同で日本の安全保障について演説する石破茂首相

NATO首脳会議見送りの判断に理解苦しむ声

招待されていた首脳会議への参加を見送った理由について、報道では様々な憶測が流れている。「米国のイラン攻撃の直後で、トランプ米大統領が参加しない可能性があったため」や、「防衛費の増額について米国から直接要求されるのを避けるため」、「米国のイラン攻撃に対する日本の態度を曖昧にしたかったため」などが推測されている。

日本はインド太平洋地域のパートナー国として、2022年から3年連続でNATO首脳会議に招待され、当時の岸田文雄首相が毎回参加してきた。岸田首相は「ウクライナは明日の東アジアかもしれない」と訴え、NATO諸国の地理的に遠いインド太平洋地域への関心を高め、英国、フランス、ドイツなどとの連携強化に尽力した経緯がある。

しかも現在、インド太平洋地域はかつてないほど厳しい安全保障環境に置かれている。仮に外務省などから参加見送りを示唆されたとしても、現在の状況を踏まえれば、それに異を唱え、「今回は絶対に参加しなければならない」と判断するのが、日本の首相として当然の責務ではなかったのか。自衛隊の幹部たちが失望した背景には、主に三つの理由がある。

核開発阻止という喫緊の課題にどう向き合うか

イスラエルがイランを空爆した6月13日、石破首相は「軍事的手段が用いられたことは到底容認できない。日本国として強く非難する」と表明した。一方で、22日に米国がイランの核施設を攻撃した際には、「核兵器保有を阻止するという決意を示した。(国際)法的評価は現時点では困難だ」と述べるにとどまった。

イスラエルへの批判と米国への配慮を示したこの対応は、ダブルスタンダード(二重基準)との批判も招いている。しかし、ロシアのウクライナ侵略以降、国連安全保障理事会が事実上機能不全に陥っている中で、NATO首脳会議こそ、核武装化を進める北朝鮮という直接的な脅威と対峙せざるを得ない日本の立場を説明し、核開発を阻止するための具体的な手段について議論する格好の場となったはずだ。

米軍によるイランの核施設攻撃を巡り、秋葉剛男・内閣特別顧問は都内でのフォーラムで「核開発を止めることが国際法違反かといえば、解釈の余地があっていい」と述べている。これは正鵠を得た発言と言えるだろう。米軍は今回、地下深くの施設を破壊できる大型爆弾「バンカーバスター」を使用し、イランの核施設をピンポイントで攻撃した。この攻撃能力について、1993年から94年にかけて深刻化した北朝鮮の核危機当時、もし米軍が同じ爆弾を持ち、それを使うことができていれば、と悔やんだ者は少なくないはずだ。

しかし当時、米国は北朝鮮との全面戦争まで想定しつつも、予測される被害の甚大さから融和策を選択した。その結果どうなったのか。北朝鮮はその後、核兵器とその運搬手段である弾道ミサイルの開発・配備を推し進め、日本は未来永劫、北朝鮮の核兵器の脅威に苦しみ続けなければならない状況に陥ってしまった。

国連憲章を文面通りに読めば、イスラエルと米国のイラン攻撃は憲章違反に当たる可能性が高い。だが、最大級の脅威である核兵器の拡散を食い止めるために、国際社会はいま何をなすべきか。今回のNATO首脳会議への参加見送りは、日本が長年背負い続けている核の脅威の重さを訴え、イランのみならず、喫緊の課題である核拡散防止について国際社会と議論する貴重な機会を逸したという意味でも、関係者の失望を禁じ得ない判断だったと言えるだろう。

参照元

https://news.yahoo.co.jp/articles/81d7258c132a05c259e8c2925ec7f68800a6b400