日本の主要なテレビ局、特にNHKや民放キー局が、かつての就職人気ランキング上位から姿を消している現状は、多くの若者にとって意外な事実かもしれません。特にテレビ局の平均年収や待遇は依然として高い水準を保っているにも関わらず、なぜテレビ局の就職人気はこれほどまでに低迷しているのでしょうか。この記事では、その背景にある理由を詳しく掘り下げます。
高い水準を保つテレビ局の待遇
若者がテレビ局を敬遠するようになった理由を考える上で、まず現在の待遇を確認する必要があります。驚くことに、データを見る限り、テレビ業界全体の待遇は未だにかなり恵まれています。
「日本民間放送年鑑」によると、民放連会員社の月例賃金平均は50万3735円(無期雇用/一般従業員/2023年7月時点)です。これは、厚生労働省の「毎月勤労統計調査」による一般労働者(事業所規模5人以上)の平均(35万1567円)と比較して1.4倍以上にあたり、待遇面での優位性が際立ちます。
さらに、民放キー局の平均年収は、有価証券報告書に基づくと、2023年度には1200万円から1600万円超という高額です。ただし、これはホールディングス制を取る各社の持ち株会社の平均であり、テレビ局本体の数値ではありません。テレビ局本体の年収を公開しているのはテレビ朝日のみですが、有価証券報告書には1400万円と記載されています。これもまた、一般的な水準を遥かに上回る数字です。
NHKは上場企業ではないため公式な平均年収は公開されていませんが、民放キー局ほどではないにせよ、一般的な水準よりは高い給与水準だったとされています。
このように、客観的なデータからは、テレビ業界が未だに高い水準の年収や待遇を維持していることがわかります。それにも関わらず、若者からの就職人気が著しく後退している現状は、待遇以外の要因が大きいことを示唆しています。
フジテレビを含む主要テレビ局が就職人気ランキングから姿を消した状況
高待遇と裏腹な「イメージ」と「将来性」の課題
では、高水準の待遇にもかかわらず、なぜ若者はテレビ局を就職先として選ばなくなったのでしょうか。この点について、元NHKアナウンサーの今道琢也氏は、その理由を「イメージ」と「将来性」にあると指摘しています。
今道氏は、自身の著書『テレビが終わる日』の中で、テレビ業界が持つイメージや、メディアとしての将来性に対する若者の見方が、人気の低下に大きく影響していると分析しています。具体的にどのようなイメージや将来性の懸念があるのかは詳述されていませんが、現代の若者が多様な情報源を持つ中で、テレビの役割や将来的な安定性に対して疑問を抱いている可能性が考えられます。
例えば、インターネットやSNSの普及により、情報の取得方法やエンターテインメントの形は大きく変化しました。こうした時代の流れの中で、テレビというメディア自体が、かつてのような影響力や安定した将来性を保てるのか、という懸念が就職を考える学生たちの間で広がっているのかもしれません。また、報道や番組制作のあり方に関する批判的なイメージも、影響している可能性があります。
元NHKアナウンサー今道琢也氏の著書『テレビが終わる日』の書影
結び:高待遇と人気の乖離が示すもの
高い給与と恵まれた待遇が維持されているにも関わらず、テレビ局が就職人気ランキングから姿を消した現状は、現代の若者が就職先を選ぶ際に、伝統的な安定性や年収だけでなく、「イメージ」や「将来性」といった要素をより重視していることを示唆しています。
テレビ業界が今後、優秀な人材を確保し、メディアとしての地位を維持していくためには、単に待遇を提示するだけでなく、若者が抱くイメージを改善し、デジタル時代における確固たる将来性を示す必要があるでしょう。この課題は、テレビ局だけでなく、変化の激しいメディア業界全体が直面している現実と言えます。
参考資料
- 新潮新書『テレビが終わる日』今道琢也 著
- 日本民間放送連盟(民放連)
- 厚生労働省「毎月勤労統計調査 令和5年7月分結果確報」
- 各民放キー局 有価証券報告書 (2023年度)
- Yahoo!ニュース / デイリー新潮 掲載記事