毎年公開される劇場版が大きな話題となる人気作『名探偵コナン』。多様な展開を見せる本作には、2000年から2012年に制作されたOVAシリーズが存在する。中でも異彩を放つのが、2009年の『名探偵コナン 10年後の異邦人』だ。この作品は、コナンが元の姿に戻れなかった「バッドエンド」を描く異色の内容として、「怪作」と呼ばれている。
公式OVA『名探偵コナン 10年後の異邦人』のキービジュアル
コナンが元の姿に戻れず高校2年生に成長した世界
物語は、熱を出した江戸川コナンが、体調不良と不安から、灰原哀が作ったAPTX4869の解毒剤の実験に臨む場面から始まる。意識を取り戻したコナンは、工藤新一の姿に戻ったと錯覚するが、そこにいたのは10年後の姿になった少年探偵団や灰原だった。すべてが分からず混乱するコナンに、灰原は「黒ずくめの組織と決着がつかないまま、10年が経過してしまった」という衝撃の現実を突きつける。コナンは身体だけが高校生のままで、元の姿に戻ることも、事件を解決することもできないまま時が止まっていたのだ。この「救われないif」の展開こそが、本作を怪作たらしめる所以である。
周囲の人々は順風満帆な人生を謳歌する絶望
自分が置かれた過酷な現実を悟ったコナンは、毛利探偵事務所へ向かう道中、大型ビジョンで服部平次が成功した探偵として活躍する姿を目にする。そこには遠山和葉もおり、二人の親密な様子は、コナン自身の停滞とのコントラストを浮き彫りにする。事務所に到着したコナンを待っていたのは、すっかり大人になった鈴木園子だ。そして彼女から、コナンにとって最も大切な存在である毛利蘭に関する、あまりにも衝撃的な事実を聞かされることになる。周囲の人々がそれぞれの人生を歩み、成長していく中で、自分だけが取り残されてしまった——その現実に直面したコナンの絶望的な表情は、観る者の胸を締め付ける。
『名探偵コナン 10年後の異邦人』は、主人公が元の姿に戻れないという「バッドエンド」の可能性を描き、ファンに強烈なインパクトを与えた作品だ。周囲の幸せな変化と自身の停滞という対比を通じて、コナンの抱える孤独や葛藤を深く掘り下げた。この救いのない「if」の世界を描いたからこそ、本作は公式OVAの中でも特に異彩を放つ「怪作」として、今も多くのファンの記憶に残っているのである。
参考
Yahoo!ニュース: https://news.yahoo.co.jp/articles/30fe30ef4098e585c3d54f0eecc6e28cb673a4da